突として鮭弁当

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 俺は部屋に戻ると、パソコンの前に座った。プログラミング作業はまだまだ残っている。  ソースコードを書きながら、ちらっと後ろを振り返る。メイとかいう女の子が持ってきた弁当は、そのままテーブルに置いてある。 「そういや、腹減ってたんだっけ……」  39歳・彼女なし・無趣味の独身男が在宅でフリーのデザイナーをしていると、寝食がいい加減になるのは仕方のないことだ。一日中パソコンの前に座っていることがあれば、一日中寝ている日もあるという乱れっぷりだ。  袋をパソコンの前に持ってくると、弁当を取り出した。あの少女の正体が何だとか、もうどうでもいい。もう半日ほど何も食べていなかったので、弁当を見ているうちに食べたいという衝動には勝てなかった。  割り箸を割って、まずは白米を一口ほおばった。 「──……うまい」  思えば、温かい食事なんて久しぶりだ。無我夢中で鮭弁当を掻きこみ終えると、空になった弁当箱をゆっくりと置いた。  いつの間にか、目に涙が滲んでいた。
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