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翌日、俺はS社のオフィスに来ていた。納品と、あとは担当者との世間話がいつもの流れだ。
「──それじゃ、動作確認も終わったので、サーバーにアップしますね。……はい、できました。これで納品完了ということで」
パソコンから目を上げると、担当者の細田に軽く会釈をする。
二つ年上の細田は、オネエ言葉を愛用し、おしゃれ眼鏡のよく似合う、垢抜けた男で、もさっとした俺とは対極にいる人物だ。だが、細田とは八年前からの付き合いなので、他のどのクライアントよりも気心が知れていた。
「はぁい、お疲れ様っ。急な依頼だったのにありがとね。はい、いつもの特濃ブラック」
「いえ、こちらこそいつも贔屓にしてもらってありがとうございます。……いただきます」
「その様子じゃ、また徹夜したんでしょ。もうっ、頑張って納期までに仕上げてくれるのはうれしいけど、いつも健康第一って言ってるでしょ? この歳で徹夜なんて自殺行為よ! お肌にも悪いし!」
細田がプンプンと怒っているのをボーッと見ながら、俺はコーヒーを口に含んだ。徹夜明けの特濃ブラックは、鳩尾にパンチされるくらい効く。
細田はそう言うが、健康第一で生きてたら、俺の事務所はとうに潰れていただろう。そうなればおまんまの食い上げで、健康などと言っていられない。結局、俺は健康的な生活に縁遠い人間なのだ。
「それにちゃんとごはん食べてるの? なんだか顔色良くないわよ? いつものあんパンと野菜ジュースで済ませてるんじゃないでしょうね」
さすがは細田だ。俺の日頃の食生活が思いっきりバレている。
「昨日は食堂の弁当食べたから大丈夫ですよ」
見知らぬ女の子が突然持ってきたものですけどね──とは、とても言えないが。
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