7人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば、あのメイという子、俺の居所を知らなければ弁当を届けられなかったはずだ。それに俺のフルネームを知っていた。表札には苗字しか載っていないのに、だ。「誰か」に頼まれたと言っていたが、その「誰か」は俺のフルネームと住所を知っている人間ということになる。
──まさか細田があの女の子に頼んだ……?
俺は目の前で眼鏡を拭いている細田をちらっと見た。ちなみにこの男、俺のフルネームはもちろんのこと、住所も知っている。
もちろんクライアントには全員、自宅兼事務所の住所が記載された名刺を渡しているので細田とは限らない。だが、俺の生活習慣が最悪なことを知っているクライアントはこの男くらいだ。しかも、いつも健康に気を付けろ、まともなものを食べろと口うるさい。
すると、俺にじっと見られていることに気付いた細田が、ポッと頬を赤らめていった。
「なぁに~? タカちゃん、理想のタイプなのに、そんな熱い眼で見られたら、つい押し倒したくなっちゃうじゃないの!」
何か聞いてはいけないことを聞いたような気もするが、きっと徹夜明けのせいだ。スルーを決め込んで、話題を変えた。
「……あの。つかぬことをうかがいますが、最近うちの事務所の方に、人に頼んで何か届けてもらったりしました……? 例えば、食べるものとか……」
「えぇ~?」
思わず訊ねてしまったが、訝し気な顔をした細田を見て少し後悔した。もし答えが「YES」なら、細田がなぜ人に頼んでまでそんなことをしたのか謎だし、逆に「NO」でも、いかにも面白そうな話題を提供してしまうことになる。
「……もしかしてタカちゃん、私に事務所の方までごはん作りに来てほしいの?」
「……は?」
「もうっ、それならそうとハッキリ言ってちょうだい! 私なら、全ッ然構わないから!!」
細田にバチコンと音がしそうなウインクをされ、その威力にHPを削られながらも、俺は少し安心した。そうだ、細田という男は人に頼むなんて煩わしいことをせず、自ら乗り込んでくるはずだ。
──じゃあ、誰だなんだ? メイを雇った「誰か」は。
最初のコメントを投稿しよう!