7人が本棚に入れています
本棚に追加
昨晩、メイの美味しい手作り弁当を食べながら、意を決したことがある。実家に電話をして、実家がメイに関わっていないかを調べるのだ。考えに考えたが、メイを送り込む人間は他に思い当たらない。
『あんたって子はほとんど連絡もせんと、東京行く言うていきなり会社辞めて、どこで何やってんのや? 盆と正月くらいは帰ってこいとあれほど言ってんのに、まったく聞かん子なんやから。ちゃんとご飯食べてるんか? チョコレートばっかり食べてるんと違うやろね? コンビニで済まさんと、ちゃんとしたご飯食いな。野菜もちゃんと摂るんよ?』
こちらに話す隙を一切与えない、怒涛のマシンガントーク。開口一番、これである。
俺は返事もそこそこに、肝心な話に移った。
「なあ、母さん……最近、俺のとこに、何かさ、送った……?」
『何も送ってないよ。前に、あんたが要らん言うたんじゃないか。米も野菜も。東京の野菜は高いやろうから言ってんのに。やっぱり送ってほしいんか?』
もう少し直球な聞き方をしようか。少し考えてから、質問し直した。
「じゃあ、知り合いの女の子とか、バイトで雇ったりした……?」
『は? 大丈夫か? さっきから訳わからんことを言っとるけど』
「なんでもない! なんでも!」
母親の呆れた声が聞こえて、慌ててごまかす。答えを知りたいあまり、直接的すぎたか。
この感触からいうと、母親でもない。そもそもこの人物、人に頼むくらいなら、米やら野菜やらを勝手に送りつけてくるはずだ。
そうと分かればもう用事はない。適当に話を締めくくって電話を切ってしまおう、と思ったときだった。電話向こうでため息が聞こえた。
『もう孫の顔見るのは諦めてるけどさ、いい相手くらい見つけぇよ。一生独り身でいるつもりかい』
「……分かってるよ」
分かっている、そんなこと言われなくたって。こちとら好きで独り身やっているわけではない。事務所が軌道に乗るまでは、事務所を潰さないようにと、がむしゃらに生きていたらこんな歳になっていただけだ。やっぱり電話するんじゃなかった、と俺は少し後悔した。
最初のコメントを投稿しよう!