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突として鮭弁当
──ピンポーン。
俺はその音を聞いて、思わず顔を上げた。壁の時計は11時過ぎを指している。ベランダの外は真っ暗だからもちろん夜の11時だ。生活リズムが崩れまくっていても、さすがに朝か夜かは外を覗かなくても分かる。
「誰だよ、こんな時間に……」
宅配や出前を頼んだ覚えはないし、連絡もせずに訪ねてくる家族や友達もいない。そして常識人ならば、こんな夜遅くに人の家を訪問するはずがない。
──つまり、今玄関のチャイムを鳴らした誰かはまともではない。
俺はパソコンに目を戻して、居留守を決め込んだ。せっかく仕事がノッてきたというのに厄介なことに関わっていられない。
ピンポンピンポンピンポーン。
だが、チャイムは早く出ろと言わんばかりに執拗に鳴りたてる。
さては、酔っ払いか? それならば、とっとと追い返してしまおう。納期は目前なのだから。
俺はため息をつくと、痛む腰に手を当てながら玄関に向かった。
「…………は?」
どうせ酔っ払いのオジサンだろうと踏んでただけに、玄関前に立っていた相手を見て、思わず間抜けな声が出た。
「夜遅くにすみません。景井高洋さん、ですか?」
そう訊ねたのは、20歳前後の女の子だった。黒髪のボブに、厚手のコートを羽織った清楚な雰囲気の女の子だ。
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