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アルバム
「これなんだけどさ」僕は部屋から持ってきたアルバムを見せた。明らかに両親が狼狽した。
「見つけちゃったよ」
「あ、あぁ……どこにあった」向かいのソファに座る父が、広げた手の親指と薬指でメガネを押し上げた。その目が落ち着きを失い、しきりに瞬きをくり返す。
「なぜ隠してたの?」
いや……と言ったきり両親は黙り込んだ。
アルバムのページをめくる。赤ん坊の僕を抱いた母。ブランコに座りちょっと不安そうな顔の僕。動物園の猿山の前に立つ僕の後ろ姿。そのすべてに写っている女の子がいる。
昔住んでいたアパートのベランダなのだろう、膨らませる丸いビニールプールにふたりで座り、僕の肩を抱き頬に頬を寄せて笑う女の子。
「美尋」僕の呟きに両親がビクリと身体を震わせた。
「ここに写ってるの美尋だよね」
「な……なんで知ってるの⁈」母が目を目を剝いた。
「なにがあったの」
僕の声に母が両手で顔を覆った。
「な、なんで知ってるんだ一路」父が茫然と僕を見た。
「そんな、馬鹿な……美尋の名前なんてどこにも書いてない」
確かに、このアルバムには事細かなことは書かれてはいない。○○公園にてとかおばあちゃんちでとか、一連の写真の場所が冒頭に書かれているだけだ。
ひゅうるひゅうると風の音……ふうぅふうぅと細く震える風の音。
「あたしのせいよぉ」母の声だった。
「言うな!」父が母の二の腕を取る。
「あたしが……」母が突っ伏すように膝に顔を埋めた。
「道路の反対側からぁ……名前を呼んだりしたからぁ」
ふぅうふぅうと風の音は続く。
「言うなって」
ふぅ?……
「もう言わなくていいって」
「な……なにがぁ?」鼻をすすった母が指先で涙をぬぐいながら眉を下げた。心痛いほどに悲しげな顔だった。僕は母を泣かせてしまった。
「美尋がそう言ってる。お母さんのせいじゃないって」
「ど……どういうこと?」
「いま、僕の隣に座ってるよ」
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