奇跡は起こる

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奇跡は起こる

 そんな、ばかな……父が呟いた。 「じゃあ、奇跡を見せてあげる。美尋」僕はアルバムをあごで示した。  両親ともにのけぞるようにして目を見張った。  もちろん僕から見たら美尋がアルバムを持ち上げただけなのだけれど。 「信じた? 僕の隣に美尋が、ふたつ違いの僕の姉がいることに」  父も母も茫然と、震えるようにちいさく頷いた。 「でも、ほんとにほんとなの一路? そこに美尋がいるの?」 「僕が美尋の名前にたどり着くなにかが、この家にあるというの?」 a6bfcf6d-bacb-4667-9641-7d059ac5d79b  両親がふたたび後ろにのけぞった。美尋がアルバムを差し出したのだ。ソファの下に膝をついた母がそっと手を伸ばす。それはすばやく引かれ、またそっと差し出される。おずおずと手を伸ばした母の前でまたアルバムは引かれる。 「ミヒ、ミヒ、ミヒちゃん!」 「美尋が肩を震わせて笑ってるよ。こんなに無邪気に笑う美尋を僕は初めて見たよ。今度は手に取らせてあげなよ」  アルバムを両手にした母。今度は引っ張り合いが始まった。 「引っ張られる! 引っ張られるわよお父さん!」  父はがくがくと頷いた。 「さわれるの⁉ ミヒにさわれるの⁉」 「ごめんね母さん。()れることができるのは僕だけなんだ」 「あなた! 美尋が間違いなくそこにいるわ」あ……うん、どうやらほんとうにいるな。 「お母さん! って美尋が呼び掛けてるよ」 「ミヒちゃん、ごめんね。ごめんなさい」 「母さん……しつこいって美尋が苦笑いしてるよ」
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