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校長先生
「や、それはいかん。父兄が教育委員会に行ってもほとんど相手にされないが、しかし、区議が動けば教育長も放ってはおかんだろう。そもそもイジメなんてものが起こってはならない。松下先生の教室ですか? イジメがあるのは」
「あ、いや、うちの教室ばかりとは……」
「どうして放っておくのです?」
「それは、校長先生が……」
「わたしがなにか言いましたか?」
「あ、いえ……」
先生たちはひどく慌てている。昨日の帰りに声をかけてきたのはミヒロだけだ。大人の人に靴のことを訊かれて泣いたりなんてしていない。
「新山、ほらここに座れ」先生の前に座った。
「いつなんだ、靴がなくなったのは」
「昨日です」
「いままでにそんなことはあったのか」
「はい」
「たとえば?」
「窓から教科書を投げられたり、ノートを破かれたり」先生は深刻な顔をした。学級委員長が訴えて知っていたはずなのに。
僕はミヒロに会いたかった。言われたとおり「靴を片方捨てられました」と勇気を振り絞って先生に言えたから。でも夕暮れまで待ってみたけど、ミヒロは現れなかった。会いたくなったら来るって言ったのに。ウソつき。
次の日、校長先生が教室にやってきた。全員がうぉと驚いた。
「校長先生はイジメなんてものは許しませんからね。もしもそんなことをしている子がいたら、あとで松下先生のところに名乗り出なさい。そうすれば許してもらえます。黙っていたらお父さんお母さんも大変なことになりますよ」
ああでもないこうでもないと、校長先生の話は長かった。そのうち、教室の後ろの方の席からすすり泣きが聞こえてきた。その声が誰のものか僕は知っていた。
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