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ナツヒは、じっと彼を見る。
誰かに似てる。誰だっけ?
彼は子供みたいに地団駄を踏んだ。
「オレだよ!澤井静!!」
ナツヒはパンッと手を叩いて
「おー!!うるさくても静か!思い出した!!」
と笑った。
「ここも変わってないやろ?」
「うん。びっくりするくらい」
わはは、と2人は笑う。
クネクネとした山道を黄色いワーゲンが走る。助手席のシートがガタンガタンと上に跳ねながら狭い道を進む。
「なんかアレやな」
静が横目でナツヒを見る。
「なんか何よ?」
「やっぱ、都会いったら変わるな。深キョンみたいやん、ナツヒ」
「深キョンは言い過ぎ。髪の毛巻いとるだけやん」
「やっぱあれか。都会の姉ちゃんは髪クルリンパするん?」
「クルリンパて。長い髪の人はするかなぁ」
「ふぅーん」
窓の外は新緑の海。
「窓、開けてもいい?」
「ああ」
と静はワーゲンの窓をさげた。
一斉に、涼しい風が車の中に入ってきた。
青臭い雨上がりの匂いが鼻をつく。
黄緑色の葉っぱが手を広げたような形で揺れていた。
その指の隙間から太陽が薄暗い山道に光のライトを灯している。
ナツヒは胸がいっぱいだった。
7年ぶりに会う母の顔を見たら、さすがに泣いてしまうだろうな、と思っていたが、母に会う前にもう懐かしい匂いで泣きそうだった。
7年間走り続けた場所に、こんな深くて暖かい優しい匂いは、無かった。
ナツヒは窓から顔を出して、頬を流れる涙を風に飛ばした。
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