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男と少年
「なぁ、悪党さん」
夜。
少年は格子にもたれたまま男に話しかける。
「悪党さんは何してここに入れられてんの?」
「大勢の者を殺した」
「そりゃ、大した悪党だな」
少年は男からもらった日記をペラペラとめくる。ぎっしりと文字が書いてあるが、少年は文字が読めない。何が書いてあるか全く理解できない。
「少年、名は?」
「……ない」
「それならば、お前は琥珀と名乗るがいい」
「はぁ? なんでだよ」
「生きていくには名が必要だ。これからは琥珀と名乗れ」
「俺、いつここから出れるかわからないんだけど」
「言っただろう、明日には出られる」
少年は気に食わないと言わんばかりに口を曲げる。月明かりが差し込むだけの暗がりだけが広がっているからか、男はそんな少年の様子に気づいていない。
「私も名をもらった人がいる。その人の望むがままに生き、そしてこれから死んでいく。だから、お前は名をもらった私の望み通りに生きろ」
「なんだよそれ、全然意味わかんねー」
横暴にもほどがある。少年はそんなことしてやるわけがないだろう、とそっぽを向く。
「まずは文字を学べ。そして、腹心を見つけろ。導いてくれる者ではなく、共に歩んでくれる者と出会え」
「無理だろ、そんなの」
「諦める前に動いてみろ。お前は人生を諦めるほど生きていないはずだ」
偶然、僅かな月明かりが男を照らす。
少年はその様子をチラリと横目で見やると、男の目が淡い色を放って光っているようのが見える。
まさか、こんなところに自分と同じ色の目を持つ者がいるわけがない。
少年は男に背を向けて寝始めると、懐かしい夢に包まれて涙を流した。
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