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男
少年はいつも減らないその食事をじっと睨みつけている。
「なぁ、それ、食べないなら俺にくれよ」
返ってくるのは言葉ではなく、重たい沈黙だけ。
「それ、いつも食わないだろ? もったいないから俺が食ってやるよ」
隣の男は何も言わずに男と少年の間の格子近くに食事を置いた。
ありがとよ、と短く言うと少年は格子の間に手を入れてガツガツと食べ始める。
「お前は何をしてここに入っている?」
男は少年に問う。
「腹減ったから露店の餅盗んだ。そしたらこの有様」
「家族は?」
「……さぁ? 覚えちゃいねぇよ。覚えてるのは一人っきりで生きてきたってことだけだ」
男は少年のことを見てふふっと静かに笑う。
「食事をやったのだ、私の願いを聞いてもらおう」
「なんだよそれ、後出しなんてずりーぞ」
少年は食事をすっかり食べ終わっている。
「これを持っていろ」
男は背中から分厚くて硬い表紙の本を少年に渡す。
「私が必死に隠し持っていたものだ。見つかってくれるなよ」
少年は渡された本をぱらぱらとめくる。
「俺、字なんて読めないんだけど」
「ならば学べ。学は誰にも奪われない、お前を助ける財産になる」
少年は男が言ってる意味がよくわからない。
「この国の王って奴はイカれてるらしい。前の女王殺したかと思ったら、その次は家来たち。人を殺すのが好きな王なら、俺はここを生きて出れないと思うんだけど。そんな俺に学べって意味ないだろ」
「大丈夫だ。お前はここを生きて出られる」
男はなぜか自信満々に少年にそう声をかけた。
「明日は恩赦が与えられる」
「おん……しゃ? ってなんだ?」
「罪を許されるということだ」
少年はますますわけがわからないと首を傾げる。
「明日はこの国一番の悪党が死ぬ日だ。お前如き小悪党のことなど頭にもないはず」
「国一番の悪党って誰のことだ?」
「その本に全ての答えが記してある」
そう言うと男は何も話さなくなった。
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