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5.その後の俺とじっちゃんと魔王様。
じっちゃんが眠ったまま、一週間が過ぎてしまった。覚悟はしてたつもりだけど、やっぱり俺には無理だった。
だって、こんなにも俺は弱い。
「…うぐっ…っ…うぅ…」
じっちゃんが寝てる部屋で泣くのが怖くて、家から少し離れた大木の幹の上で泣くのが最近の俺の毎日。
昔から俺が泣くと、じっちゃんは笑いながら頭を撫でてくれた。子供みたいで恥ずかしいって抵抗ばっかりしたけど、本当は凄く嬉しかったんだ。
魔王様にお暇をもらったからと、じっちゃんとこの家に越してきて一年。
毎日、じっちゃんの傍で目が覚めて、じっちゃんと共に眠りに就く。まるで夢のようだったし、信じられないくらい幸せだった。
だから、罰が当たったんだ。
幸せすぎて浮かれて、じっちゃんが弱ってるのに気が付かなくて、毎日強請ったりしたから、じっちゃんが弱ってしまったんだ。
「ごめっ…ごめんなさいっ!ごめん…なさ、い…っ、じっ…ちゃん……ふぐっ…ぅう…」
「なんだぁー?じーさん、もう死んだのか?」
「しっ、死んでないっ!」
勝手に殺すな!とばかりに、顔を上げたら男が少し上の幹に座って、俺を見下ろしていた。何が面白いのか、ニヤニヤ笑って。
睨みつけながらもよく見れば、その男は俺と同じ黒髪で黒の瞳をしていた。黒髪はこの世界では珍しい色なのに、居るところには居るんだなぁとぼんやり思う。
あれ?でも、この男…どことなく俺に似ているような…。いやいや、まさか!俺は真似て作られたから、似てるのは俺のはずで、でも、俺が似るのは『彼の方』だけで…そうなるとこの男は、彼の方と同じ。いや、でも、彼の方と同じ人なんて居るはず……はずは…なく。でも、目の前に………え…?あ、あれ?えーと…。
ま、まさか…。
「…ま、魔王、様………?」
「は~い。魔王です。やっと会えたな『サクラ』ちゃん?」
えええええええぇぇぇぇーーっっっ!!??!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いつから起きなくなった?」
眠り続けるじっちゃんの顔を、じっと見ながら魔王様が聞いてきた。
「……いっ、一週間前、です」
「ふーん」
目を逸らさず、じっと見続ける魔王様に不安になってくる。でも、魔王様なら、きっと…。
「あ、あの。じっちゃんは…」
「ん?うーん。ギリもって一ヶ月ぐらいじゃね?魔力、まるっきり無くなってっから」
「っ!お、俺の…俺のせいだっ!…うわぁーーんっ」
ここでは泣かないって決めたのに、もう押さえ切れなかった。
俺のせいだ!俺のせいでっ!俺が、じっちゃんを………!
「おいおい。なんで、『サクラ』ちゃんのせいなわけ?寿命だろ、このじーさん?」
「お…、俺。じっちゃんと、い、一緒に居られる…のが…う、嬉しくて…。ま、毎日、シてもらってたから、だから…っ!」
「くはっ!マジかっ!浮かれすぎだろ、じーさん!
いいね!実にいいっ!それでこそ、魔界一のエロ爺だわ~。マジ、リスペクト!」
よくわからない言葉を言いつつ、笑いまくる魔王様に腹が立つ。
俺、知ってるんだよ?じっちゃん本当は…。
「…な、何が、可笑しいんです…か」
「えー?可笑しくない?腹上死なんて、じーさん幸せっしょ?」
「まだ、死んでませんっ!それ、に……し、幸せ…なんかじゃ、ありま…せん。じっちゃんは、可哀相な方だったん…です」
「なに言っちゃってんの?よく見てみ?この顔。毎日ヤリまくってやったぜぃっ!みたいに、殴りたくなるくらい満足満々な寝顔じゃねーかよ」
「そ、そんなわけ…ありません…。俺みたいな身代わりなんかより、本当に好きな方といたかったはず…です」
「誰よ?それ」
「っ!貴方ですよっ、魔王様!」
「…………」
「…じっちゃんは、魔王様の事…好きだったんです。…だから、俺を作っ…うぐっ」
「…マジか…」
「(まじって…何だろ?)…そうです!俺は魔王様の身代わりで作られたんですよ。だから、じっちゃんの事少しでも好きな「くはっ!くはははっ!ヤメテ!もう、ヤメテーっ!」
いきなり魔王様が膝を折り、床に手をついて笑いだした。さらに、床をバンバン叩いて大笑いしてる。俺は、どうしていいのかわからず、ただじっと魔王様の笑いが終わるのを待つしかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はーっ、はーっ、腹筋が千切れ飛ぶかと思った!恐ろしい子達だわ~君ら。はーっ、はーっ」
「……酷いです。魔王様…」
「えー?何でー?」
ようやく立ち上がった魔王様は、やっぱりニヤニヤと笑ってて腹立たしかった。
「んなに、怒んなよ~。『サクラ』ちゃん?」
「だって…じっちゃんは、本当に…」
「うんうん。よーくわかったからさ」
「わかってません!わかってたら、もっと早く…じっちゃんに、会いに…ぐすっ」
「わかってるって~、くはっ!ほ、本当に、わかってるから大丈夫だって~」
「魔王様っ!」
「はいはい。いやはや。マジで思い知ったわ~。このじーさんがめっちゃ拗らせてんのが。はー、初恋って拗らせると、っぱない破壊力だよな。『サクラ』ちゃんも気を付けねぇと、よそ様の腹筋殺すよ?」
「………え?」
はつ、こい?こ、こじらす?…どういう事?
「はー、ホント流石だわ~。ひさびさに笑った!いい運動できたわ~。よし、んじゃ、始めるか」
「…何を、ですか?」
「うん。まずは主役に起きてもらおっか」
そう言うと、魔王様は人差し指をじっちゃんの額に当てた。すると、ゆっくりとじっちゃんが目を開けたのだ。たまらず駆け寄る。
「じっちゃん!」
「…ん。……サク…ラ…?」
「あぁ…じっちゃん…よ、良かっ……うぅっ…」
「どうし…「起きたか。エロ爺」…!魔王様!…ぐっ…」
「まだ、起き上がれるほどは渡してないからな。寝てな」
「…なにを…」
「『サクラ』ちゃんから聞いたぜ~?毎晩ヤリまくって腹上死しかけたらしいじゃねーの?いやー、まだまだお若いですなぁ?『じっちゃん』」
「…ぐぬぬっ!……わざわざ、老いぼれの死に様を見に来たとは暇な方ですな、貴方は」
「今更、キリッてしても遅いっつーの!ま、死に顔は老後に取っとくとして…。で、ヴァージル。長年の仲間として、最後に俺に伝えたい事ってあるか?」
最後って…。ま、まさか、じっちゃんはダメなの?魔王様でも無理なの?
絶望にふらつき、たまらずにベッドの横にしゃがみ込む。
そんな俺を魔王様が視線だけでチラリと見た。
「…では、ワシの亡き後、サクラをお願い…出来ますか?」
「や、やだよっ!…そんな事、言わないで、じっちゃん!」
「…サクラ」
立ち上がり、じっちゃんにしがみついた。涙がぼろぼろ出て来て、じっちゃんがよく見えない。そんな俺を、じっちゃんが震える手で頭を撫でる。
だから、ますます涙が出て来て、じっちゃんがぼやける。ちゃんと見たいのに。
「あ~、え~と、…うん。盛り上がってるとこ悪ぃんだけどよ?多分…俺、しばらく動け無くなっからさ、無理だと思うんだわ~」
「「…は?」」
「あとさ、じーさんの大好きな『サクラ』ちゃんが、自分は身代わりだって誤解してっから、ちゃんとフォローしとくように!」
ビシッとじっちゃんを指差しながら魔王様は言うけども、何の事かわからなくて、じっちゃんと二人で魔王様を見つめてしまう。
二人の視線を受け、それはそれは楽しげに魔王様がにかっと笑った。…と、思ったら両手でじっちゃんの顔を挟みキスを……ん?キス……?って!ええぇっー!???!
魔王様がっ!じっちゃんにっ!キ、キスしてるぅーーーっっっ!!!
突然の事に呆然としてると、もの凄い魔力が部屋中に溢れた。強烈で絶対的な圧力を感じ立ってられなくなる。
「コウ!お前っ!…まさかっ」
じっちゃんが凄い勢いで起き上がり、魔王様を掴んだ。ってか、じっちゃんが起き上がった!
「くはっ!その顔!いいね!実にいいっ!!頑張った、かい…があった…わ~……」
ガクンと魔王様が崩れる。だけど、寸前でじっちゃんが抱き寄せたので、魔王様はベッドの上のじっちゃんに、覆い被さるように倒れ込んで動かなくなった。
「…馬鹿な…なんという事を…」
「じ、じっちゃん…。魔王様、どうしちゃったの?ま、まさか…」
「……おそらく、魔力を使いすぎて…冬眠状態になったんだろうよ…」
「っえ?…え、ええええぇぇぇっっっー!?!?!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔王様は眠り続けてる。眠る魔王様は、荒々しさも無く、ちょっと幼く見えてなんか可愛い。…って言ったら、不敬だって怒られそうだから俺の中だけにしまっておく。
じっちゃんは毎日、魔王様が寝てられる部屋に行き、じっと魔王様を見つめている。
話しかけるでもなく、触れるわけでもなく。ただ、じっと眠り続ける魔王様を見ているのだ。
そんなある日、じっちゃんがポツリと話し出した。
「…お前を作る時に魔王様を見本にはしたし、もう使わないと仰った『苗字』も頂いた」
「……」
「……だがな。お前を『身代わり』にした覚えはないんだよ、サクラ」
「……っ!」
「…確かに、彼の方に惹かれなかったとは言わんが。だが、今、ワシが大切に想うのは…。サクラ、お前だけなんじゃ」
「…じっちゃん」
「浅ましいと笑うか?己で作り出した者に懸想するなど…」
「そんなわけない!う、嬉しい!…俺、ずっとじっちゃんが好きだったから…だから…っ」
胸が詰まって続けられなかった。あっという間に視界がぼやけて、ぼろぼろと後から後から涙が溢れた。
そんな俺を、じっちゃんは抱きしめながら頭を優しく撫でてくれた。だから余計涙が出て、しばらく泣き続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
魔王様のお体を清めるのは、じっちゃんと交代でやっている。今日は俺の番。
「じゃあ、失礼しますね」
布団をどけて、服を脱がす。傷一つない、程々に筋肉のついたキレイな肌が出てくる。うーん。じっちゃんも魔王様を見本にするなら、俺にもこのお肌を作ってくれたら良かったのになぁ。などと、埒もなく思う。
「ふんふんっふふぅ~ん。今日もぉキレイにぃ気持ちよく~ぅうん。たらりらっら~」
「………俺の腹筋を、殺しに来てる程の音痴だな。おい…」
「んぎゃあっ!えっ?ま、魔王様っ!うそっ!あわわっ!じっ、じっちゃん!じっちゃーんっ!魔王様がーっ!」
慌てて部屋を出る。
「……本当に、俺を見本にしたのか…あれ…」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「説明して頂けますかな、魔王様」
居間のソファにどっかり座った魔王様の前に、じっちゃんが腕を組んで仁王立ちのまま魔王様を見下ろしていた。冷え冷えとした恐ろしい目付きで。
だけど、魔王様は涼しい顔で、俺が入れたお茶を美味しそうに飲んでいる。魔王様流石です。俺なんか震えっぱなしなのに。
「すっかり元気じゃん?」
「……おかげ様で。で?説明はして頂けますかな」
「ん~?説明って言ってもなぁ。単純にさ、長年の功績に対する退職金と年金一括払い?な感じよ。わかるっしょ?」
「まったくわかりませんなっ!!」
「くはっ!ドヤ顔で全否定、ないわ~」
「魔王様!」
「それ、やめろよー。じーさんはもう、俺の部下じゃねーじゃん?堅苦しいったらねぇぜ」
「………コウ様」
「そうそう。様もいらねぇけど…」
「何故、ご自分の魔力を使ったりしたのですか?」
「…………………いや?…使ってねぇし」
うわぁー、魔王様。俺でもわかりますよ、その嘘。目が泳ぎすぎです!
「コウ様…ワシは十分に生きた。こんな老いぼれの為に、貴方が身を削る必要などなかったのです」
「う、うん。…でも、使ってないから…」
「一歩間違えたら、どうなっていたか…。貴方にもしもの事があったら、ワシは…死ぬだけでは生温いこの身に耐えられない」
「…だから、使ってねぇし!」
「コウ様…お願いですから、ワシの事よりご自分の事を「あーっ!うっせぇっ!!そうだよっ!自分を優先したんだよ!これは!」……は?」
ガチャンとカップを叩きつけるようにテーブルに置くと、魔王様は立ち上がりじっちゃんを見上げた。
「じーさんには、めっちゃ世話になったし!老いらくの恋して楽しそうだったし!だから、もちっと生きててもバチが当たんねぇかなって…!けど、人間の魂がなかなか集まんねぇのに、どんどんじーさんの魔力が感じられなくなって…っ。そしたら、俺には余るぐらい魔力があったし、だから………っ!
そうだよ!だいたい、これは俺の魔力だぞっ!俺がどう使おうが、俺の勝手だし!じーさ……ヴァージルには関係ないだろーがよっ!…くそっ!」
「…………コウ様…」
再びソファにどっかり座った魔王様は、俯いて頭をガシガシ掻きむしった。そんな魔王様を、じっちゃんはなんとも言えない表情で見つめていた。
あぁ、そうか。この二人は…。
「『サクラ』ちゃん、茶!おかわりダッシュでよろっ!」
「は、はいっ!直ちに!」
よろって何?と思いつつも、新たなお茶を用意すべく慌てて部屋を出た。
「…俺が『人間』から『魔王』にシフトチェンジしたのを知ってんのは、この世界にお前だけなんだよ、ヴァージル…」
「………はい」
「………こんなクソみたいな世界に、俺だけを置いてかないでくれ……頼むよ…」
「……わかりました」
「…………」
「これからは、決してコウ様を残して逝きません」
「……はっ、ホントかよ。嘘くせぇ~」
「では、逝く時には、コウ様を道連れにします」
「くはっ!『サクラ』ちゃんに怒られんぞ、それ!」
「ならば、サクラも連れて行きます」
「俺がゴメンだわっ、そんなのは!二人で逝けっ!」
「…………」
「…………」
「…ありがとうございました。コウ様」
「……ん。これからも、宜しくな。…ってか、様はいらねぇからなっ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そーいえば、俺、どれぐらい寝てた?」
「だいたい、十年くらいですかな」
「…マジかっ!…やっべ~……」
「何か、気になる事でも?」
「うん。約束してんだわ。『勇者』くんと」
「……『勇者』とは、あの『勇者』…ですか?」
「そっ、それ!あ~、でも、上手くいってれば多分、今は『元勇者』になってるはず」
「「………はいっ?」」
「さてと、十年世話になったな、そろそろ行くわ。『サクラ』ちゃん、お茶、ごっそさんね」
魔王様がカップを皿に置いて立ち上がる。じっちゃんが、心配そうに魔王様を見上げた。
「目が覚めたばかりです。もう少し休んでいかれては…」
「十年も休んだんだぞ?これ以上寝てたら発酵するわ、マジで」
はっこう?魔王様って時々わかりにくなぁ。…と考えてたらニヤニヤ顔の魔王様と目が合う。
「『サクラ』ちゃんも、早く『じっちゃん』と二人っきりになりたいっしょ?」
わぁぁーーっっっ!!そうだけど、そうだけどーっ!改めて言われると…顔はもちろん体中熱くなる。
「……俺様モデル仕様とは思えんくらい素直だね、君。うん、そんな君にとっておきの情報を教えてあげよう。ほれ、ちこう寄らぬか~」
魔王様が俺に手招きする。え?行かなきゃダメ?とじっちゃんを見ると、やれやれ、みたいな顔をしてた。
仕方なく立ち上がり、魔王様の近くに行くと、いきなり首根っこを掴まれ引き寄せられる。
ぎゃ~!近いです!魔王様ぁーっ!
「座ってろ、ヴァージル。今から『サクラ』ちゃんと内緒話すんだからよ」
見ると、中腰になってたじっちゃんが、しぶしぶという表情で座り直す。もしかして、助けに来てくれるつもりだったのかな?
「くはっ!愛されてんね~『サクラ』ちゃん?」
耳元の魔王様の声は、信じられないくらい甘い。腰にきそうだよ、これ!
「知ってんと思うけど。俺ね、ヴァージルとは付き合い長いわけよ?」
「はい。存じ上げております。…それがなにか?」
「だからさ~、君の知らない秘密、い~っぱい知ってんだわ~」
「ひゃっ!は、はい…」
耳元で囁くせいか、息が耳にかかりゾクゾクしています。魔王様って、なんかいけない成分が出てるんじゃないの?うぅっ…股間が大変な事になっちゃうよ…。
「ヴァージル復活記念に、一個面白いの教えてやんよ?あのな、……………………………………………………するんだぜ~?」
「……えっ?ほ、本当に…?」
「マジマジ!ほら、今もだから、見てみ?…………………だろ?」
慌ててじっちゃんを見る。
眉間にしわを寄せて、不機嫌を隠そうともせず俺達を見ていた。そして…。
サワサワ。
「っ!」
「くはっ!サイコーだろ?あれ?」
「………じっちゃんって…」
「めっちゃ、……だろ?」
「ふふっ。はい!」
「………………コウ。変な事をサクラに教えるな!」
じっちゃんがソファーから立ち上がった。
サワサワ。
サワサワ。
サワサワ。
「おいおーい。余裕がないと『サクラ』ちゃんに捨てられるぞ『じっちゃん』?」
「コウっ!」
「くはっ!マジだ!マジ怒だわ~!いいね!実にいいっ!!
じゃあな、ヴァージル。サクラちゃん」
(あ、名前。初めてちゃんと呼んでくれた!)
一人感激してると、魔王様のお姿が揺らめいて、すーっと消えてしまった。
転移魔法だ!す、凄い!こんな近くに居たのに…空気すら動いてないなんて!
「魔王様って、本当に凄い人だったんだね?あんなにヘラヘラしてる印象なのに…」
「……何を話していた?」
感心してたら、じっちゃんが俺のそばに来てた。そして、おもむろに耳に触れ、ゆっくりと指でなぞっていく。
「…んっ!…あ。じっ、じっちゃん?」
「…感じていたな。コウの声を聞きながら」
「…あ、ややっ。だ、だってっ!絶対、体中からなんか変なの出してるよ?魔王様って!?」
「ったく…。声に魔力を乗せて送り込んだんだろう。変な魔力の使い方ばかり覚えていくな…彼の方は」
「……ははっ…」
「…で?」
「……………えっ?」
「何を言われたんだ?教えなさい」
「っ!あいったたたぁーっ!」
なぞってた指で耳を摘まみ上げられ、たまらず暴れた。
「痛いって!じっちゃん!は、な、し、て~っ!」
「ダメだ。コウの事だ。どうせ、ろくでもない事だろうが、知らないと不安だからな。ほら、言いなさい!」
「わ~っ!ひ、秘密なんだもん!秘密だからダメなんだってば~っ!」
「……そうか、わかった。なら、話したくなるようにするだけだな」
ひょいっと肩に担がれる。だから見えた。
じっちゃんが後ろに纏めてる髪の毛の先が、サワサワ動いてるのを。
『イライラすると、髪の毛の先がサワサワ動くんだよ。何故かヴァージルは気が付いてないんだわ~。これが!』
「じっちゃん」
「なんだ?話す気になったか?」
寝室に向かってたじっちゃんが、足を止めて俺を降ろす。見上げれば、じっと見つめられる。
今まで、ずっと好きだった人。
これからも、ずっとずっと好きでいる人。
「俺ね、魔王様の事、好きになっちゃたよ」
「……っ!!」
ザワザワザワ。激しく揺れた。でも、幸せの揺れだ。
「もちろん…じっちゃんの次に、だけどね?」
じっちゃんが、ニヤリと笑った。それが、魔王様にそっくりでビックリした。
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