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あれからの俺とじっちゃん。2
『ザルク』の町は、それなりに大きな町だった。人が頻繁に行き交い、通りには出店がずらりと並んで、行き交う人に声をかけてる。
「日も暮れてきたのに、まだまだお店は開いてるし、活気のある町だね、ここ」
「騒がしいだけじゃないのか?」
キョロキョロしまくる俺とは違い、じっちゃんは至って平静に答える。
確かに、魔国だとこんなに人がいる事はなかったし、町というよりは村しかなかった。そして、魔族達は皆がそれぞれ思い思いにのんびりと生活していたっけ…。
ま、じっちゃんは、もともと『人間』に興味がないからなぁ。
「あ、じっちゃん。宿屋を決める前にギルドに行ってもいいかな?途中で狩った魔物の素材も買い取ってもらいたいし」
「わかった」
道行く人に尋ねながら着いたギルドは、石造りな三階建てのかなり立派な建物だった。
「わぁ~!凄く立派なギルドだなぁ」
「これでか?」
「人間界では大きい方だよ?大体が木造だったり、石造りでもせいぜい二階建てだからさ」
「…ふむ。そんなものか」
「そんなもんです」
俺の方が人間界には詳しいみたいで、なんだか嬉しい。だから、ちょっと胸を張って答えたら、じっちゃんが口元だけで笑った。
ギルドの中に入ると、内部も大きい建物に見合った広さで、たくさんの人がいて騒がしかった。とりあえず、素材の買取をお願いするために受付に行く。
買取の受付には、やる気のなさそうなおっさんがいた。じっちゃんに持っててもらった素材を鞄から出し、机に置くとおっさんが少し目を見開いた。
無理もないよね。じっちゃんと狩った魔物は中堅クラスで、素材の傷みもないとても良い状態なんだから。
そう思い、ちょっと得意になってた俺に受付のおっさんは、今までで一番安い買値を告げたのでビックリしてしまった。
「これ、他のギルドじゃ、五倍くらいの価格で買い取ってもらいましたよ?」
と、俺が説明すると、受付のおっさんは物凄く面倒くさそうに顔を歪め、これ見よがしに大きな溜息をついた。
「あんた、どこの田舎から出てきたんだ?この素材は、最近余るぐらいあってな、どこに行っても二束三文の買取になってる。うちはまだ高値で買い取ってやってる方なんだよ。文句があるなら持って帰ってもらってもいいんだぜ?」
「……じゃあ、それでいいです」
持ってても邪魔だから、売るのは決定なんだけど…。何だか釈然としなくモヤモヤしてしまった。
俺が、じっちゃんと過ごした一年の間で、そんなに人間界の相場が変わっていたのかと実はひっそり驚いていた。
気を取り直し、カードの更新手続きをするために、受付のお姉さんにお願いしに行く。
「あら~。アルさんは、この一年くらい活動していないのね?何かあったの?」
「え~と…色々ありまして…その…」
本当に色々あった。じっちゃんが魔王様にお暇を頂いて。だから、じっちゃんと毎日楽しく暮らしていた。でも、じっちゃんが倒れてしまって……。あ、ダメだこれ!
っと、思う間もなくポロリと涙がこぼれた。すぐに袖で拭ったけど。
「……何か事情があったのね。大丈夫よ、詳しくは聞かないわ。だけど、一年も動きがなかったから、調べるのに時間がかかるの。カードの受け渡しは明日でもいいかしら?」
「あ、はい!それはもちろん…」
しっかり見られていたらしい。うわぁ、恥ずかし~。
カード更新をお願いして振り返ったら、すかさずじっちゃんに抱きしめられた。慣れ親しんだ抱擁にほわわ~んとしていたけど、後の受付から息をのむ気配を感じて我に返る。
「じ、じっちゃんっ!ひ、人前だからっっ~!」
「それがどうした?」
顎を掴まれ上を向かされる。そこには、心配そうに俺を窺うじっちゃんがいた。目が合うとじんわりと温かいものが俺の胸に広がっていく。
「泣いたのかと思ったが…大丈夫そうだな。紛らわしい素振りを見せるな」
「…うん。ごめんなさい」
「…何故、笑う?」
「ふふっ。嬉しいからだよ」
「?」
意味が分からないと言いたげに、じっちゃんが俺を見ていたので、ぎゅっと抱きつく。
表情が豊かになったじっちゃんは、ちょっと『人間』みたいだ。今まで見た事がなかった感情の動きがあって、まるで俺の事を大切に想ってくれてるみたいに感じてしまう。
だから、最近の俺はずっと浮かれっぱなしだ。
今日はベッドに入ったら、じっちゃんに抱きついて寝ようかなぁ。むふふっ。
「…あ!じっちゃん、ちょっと待ってて。受付の人に良い宿屋がないか聞いてくるから」
「うむ」
またも振り返り受付を見ると、さっき受け付けをしてくれたお姉さんが、頬をちょっと朱に染め俺達を見ていた。ん?なんで?……あっ!俺、今、じっちゃんに抱きついちゃってた!うぐぐっ。き、気まずい~。
とりあえず、平常心でギルドお勧めの宿屋を聞く。すると、仮のギルドカードを渡された。一応これで、冒険者用の特権は使えるらしい。良かった。
「……え?嘘だろ?もしかして、アル…か?そうだよっ!アルだろ?お前っ!」
お姉さんに説明を受けてたら、不意に隣から声がかかった。見ると、俺より頭半分くらい背の高い男が、俺をじっと見下ろしていた。
正直、見覚えがない。
髪は赤茶色で、洗ってないのか少しぺったりで艶もなく、不揃いな長さを適当に後で括っている。髭も適当に剃っていて、肌艶も悪くカサカサだ。目は髪と同じ赤茶色。満足に寝てないのか目の回りは黒く窪み澱んでいる。。服装もよれて所々破けていたりで、あまり良い生活はしてない感じだった。
だけど、俺を映す瞳だけが、やたらとギラギラしてて正直怖かった。
(やっぱり分からない。でも、この人…俺の『人間用』の名前知ってたし。って事は、どこかで会って…)
「おいおい!まさか、俺がわかんねぇのかよ?…いや、ま、七~八年ぶりだからな。分かんなくても無理ねぇか…俺も大分年食ったからなぁ、ははっ」
七~八年ぶり?だとすると…『中央都市』の近くの町で頑張ってた頃だな。あの時は、精を食べる事にムキになってたから。多分、その時の一人なのは確かなんだけど…。
「しかし…信じらんねぇな…お前全然変わってねぇじゃねえか。…あの時のまま、だ」
そう言うと、男は目を細め、骨張った手で俺の頬を撫ぜた。
その瞬間、ぶわっと体中が浮く感じがして、喉の奥に迫り上がるものがあった。慌てて手で口を押さえる。
「俺だよ、俺。『ネルゼン』だ。『ナーウィン』の町で一緒に仕事をしただろ?」
(えっ?ナーウィンの…町?…ネル…ゼン…て、まさか…あの…?)
「あぁ?忘れたか?あんなに…」
男がスッと体を寄せるように近付いてくる。途端に鼻をつく異臭を感じた。胃の奥から何かが迫り上がってきそうで、何とかやり過ごそうと顔を背けると、男は何を思ったのか、さらに体を寄せ俺の尻を掴んできた。
予想もしてない動きに驚き固まる俺に、
「あんなに何度もここで、俺を受け入れて喜んでたじゃねーか?なぁ?」
と、男が耳元で囁き尻の割れ目を指でなぞった。ぶるりと体が震える。
(やっぱり、あの『ネルゼン』なのか?)
戸惑う俺をよそに、男は掴んでいた手を動かし更に尻を揉み始めた。人前とか全然構わない強引な行為にも驚いていたが、もっと違う事で俺は焦っていた。
男の行為は明らかに色めくものだったから…。このままだと自分の体のスイッチが確実に入ってしまう。そう考えた途端、その瞬間を恐れるかように体が震え始めた。
だから、その時のために身構えてたのだけど、警戒していたものが来ず、その代わりに、それまで一度も体験した事のない異変を感じた。
それは、激しい悪寒だった。
しかも、耳元から虫が入り体中を蠢くような、そんな気持ちの悪い感じの…。いつもとは違う、経験した事がない背中を這いずるゾクゾクとした感覚に驚いていると、体の震えが激しくなり、汗も噴き出してきた。
(…なに、これ…っ!なんで急に…?)
今まで、明確に相手から性欲が向けられたら、自分の意思とは関係なく、体は勝手に甘い感じになっていたのに。
だけど今は、自分でもどうしていいのか分からないほど、全身がおかしな事になっている。こんな感じは初めてだった。
とりあえず、男から離れようと動いたら、男は更にもう一方の手も俺を抱えるようにして、両手で尻を揉み出し始めた。そうなると姿勢が、男に抱きしめられてるような形になる。向かい合う事になった男の息が顔にかかり、その生臭さにゾッと鳥肌が立った。
(き、気持ち悪い!吐きそう…。早く離れなきゃ…)
込み上げる激しい吐き気をなんとか押さえ、離れようともがいても、男は楽しげに喉で笑い、さらに強い力で執拗に尻を撫で回してくる。一向に収まらない吐き気に、だんだん意識が朦朧としてきた時、不意に拘束が緩んだ。不思議に思って顔を上げたら、尻を揉んでたはずの男の手が、頭上に上がっていた。
いつの間にか、じっちゃんが傍に立ってて、男の手を捻り上げていたのだ。
「っ…たたっ!何だよ、てめぇは!」
「この子は、ワシの連れでな。汚らしい手で触らんでもらえるか?」
「じっ…っ!」
ぐいっと肩がひっぱられる。よろめく俺をじっちゃんが開いてる手で抱きとめてくれた。思わず、その腕に縋り付く。
「はぁ?連れだぁ?てめぇみてえな爺さんが、かよ?…ってか、離せよっ!おいっ…」
「…じっちゃんっ!」
暴れる男を片手で掴み上げてたじっちゃんは、流れるような動作で足を掛けて男を倒すと、腕を後ろ手に締め上げてしまった。
「ぐあっ!痛ぇっ!…っ…やめっ…は、離せっ、離せよーっ!」
床にうつ伏せのまま激しく暴れる男の抵抗を、何一つ感じてないように微動だにせず腕ひとつで押さえ込んだまま、じっちゃんが俺を見上げた。
「消す…か?」
「……え?」
それは、『寝るか?』とか『食べるか?』とか日常的に普通に話すような感じだったので、一瞬意味が分からずポカンとしてしまった。
だけど、じっちゃんの『消す』の本当の意味に気付いて慌てて否定する。
「だっ、だめ!離してあげてっ」
「……良いのか?」
「いっ…いいから早く!」
「…………」
じっちゃんの腕を引っ張り、立たせようとするけど、大柄じゃないのにどっしりとして、俺が何してもピクリとも動かない。それどころか、押さえていた手に力を込めたのか、男が低く呻いた。
「じっちゃんっ!」
「…わかった。そう怒鳴るな」
やれやれと言いたげに、じっちゃんが手を離すと、男は凄い勢いで体を捻りじっちゃんに殴りかかった。
「…っ!」
だけど、じっちゃんは目だけで男を見て、立ち上がるだけの動作で男を躱した。なので男の腕は、躱されたまま空を切り、そのまま床に激突した。
「がっ…!ぐぉ…っ…ぅぐ…」
凄い音と同時に男が手を抱えて転げ回る。音の感じから、床と一緒に骨も砕けてるかもしれない。よく見ると手からは血が流れていた。
じっちゃんは、そんな男に構わず俺を抱き寄せた。
「大丈夫か?」
「う、うん。でも…俺の事より、あの人が…」
男が血だらけの手を抱え込んだまま、上半身を起こした。俺達を睨んでる目は涙で潤んでるようだった。
何本かの指がだらりと垂れてるのが見える。やっぱり折れてるらしい。早く、手当てをしないと…。
「自分で勝手にした事だ。ほっとけ」
じっちゃんは男を一切見ず、俺の顔を見つめながら言い放った。
すると、今まで俺達のやり取りを静かに見ていたギルド内の人達から、小さな笑いが漏れ、やがて誰かが吹き出すと、それを合図とばかりに室内が笑いに包まれた。
「た、確かに、あいつが勝手にしただけだがよー、ぶははっ!」
「自滅って…っ!」
「明らかに、敵わないってわかんだろーによ。あぁ、あいつには無理だったかっ」
「しょうがねぇよ、ぽんこつだからな!」
「違ぇねえ!いい気味だぜっ!ぎゃははーっ」
(な、なんだ?この人達…)
その笑いの中には、明らかに蔑みと嫌悪が含まれていた。
(なんて嫌な雰囲気なんだ…。これは、この一連の事柄ではなく、明らかに『ネルゼン』に対してみたいだ。でも、一体どうして…)
周りの笑いが一層大きくなるのを、不愉快に感じていたら、ネルゼンが唇を噛み締めて立ち上がり、出入口に向かった。よく見ると右足を引きずっている。
(じっちゃんは軽く足を引っ掛けただけだから、もともと足を悪くしてたのかな?…あっ!)
あと少しで出入口という所で、知らない男が出した足に躓きネルゼンが派手に転んだ。再び沸き起こる笑い。
そんな中でネルゼンは、俯いたまますぐに立ち上がりギルドから出て行った。だけど、悪意の塊のような笑いの渦は治まらずに、ギルド内に重く澱んで渦巻き続けていた。
息苦しく胸がむかむかする。何がそれ程に面白いのか…。
先ほどの吐き気が、ぶり返してくるようだった。
「相変わらず、人間共は浅ましいな」
じっちゃんが、俺にだけ聞こえるように呟いた。だから小さく頷く。
「大丈夫だった?あの男の知り合いなんて災難だったわね」
不意に話しかけられ振り向くと、さっきまで相手をしてくれてた受付のお姉さんが傍に立っていた。
「昔は上級の冒険者だったって自分では言ってたし、確かに持ってるカードは上級者のなんだけど…。この町ではちょっと厄介な人なのよ」
「…厄介って。彼は、一体なにを…」
「あの足見たでしょ?魔物にやられたらしいけど、それを理由に他の同業者に集ってたのよ。
最初は皆同情して、仲間に入れたり簡単な仕事を回したりしていたんだけど、そのうち仲間のお金を盗んだり、仕事を邪魔したり。終いには人の彼女や奥さんに手を出したりして問題になってたの…。
で、この町の人間が相手にしなくなったら、貴方達みたいに他から来た人に集ったり、ちょっかいをかけて喧嘩したり暴れたり…。
でも、『冒険者カード』を持ってる人をギルドは保護する立場だから無視も出来なくて…困ってるのよね、本当に」
お姉さんは心底嫌そうに話ながら、血の付いた床を掃除し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
紹介された宿屋は、木造の二階建てで、案内された部屋はベットが一つの小さな部屋だった。だけど、掃除が行き届いていて割と綺麗だった。一階の食堂で食べたご飯も美味しかったし、なかなかに良い宿屋だと思う。
冒険者は基本、皆で雑魚寝が多い(節約のため)。なので、一部屋でも本来なら文句は言われない。だけど、店主が俺達に二部屋ではどうかと、やたらと勧めてきてた。
かなり粘ってたけど、じっちゃんが必要ないときっぱり断ったら、店主が分かりやすいくらい落ち込んだので、気付かれないようにこっそり笑った。
「何故あの人間は、ワシらを引き離そうとするのだ?仲間だと言っておるのに…」
部屋に入って、荷物を部屋の隅に片付けていると、マントを脱ぎながらじっちゃんが不機嫌そうに言うので、思わず声を出して笑ってしまった。
「何だ?」
「じっちゃん、かっこいいからね。『おもてなし』がしたかったんじゃないかなぁ」
「??」
眉を寄せて俺をじっと見るじっちゃんを、微笑ましく思いながらも複雑な思いが湧き上がる。
(本当にじっちゃんはかっこいいからなぁ。俺ごときじゃ相手に見えないのも無理ないかも…。もしかして…まさかと思うけど、お、親子に見えちゃった、とか?年齢的にはそうかもだけど…!いやいや、そんな…っ!)
自分の考えに嵌って落ち込んでると、突然温かさに包まれた。振り返るとじっちゃんが後ろから俺を抱きしめていた。
馴染んだ体温と、じっちゃん独特の柔らかい香り。自分の気持ちがすぐ落ち着くのが分かった。
「『おもてなし』とは何なのだ?」
俺の肩に顎を軽く乗せてるので、囁くようなじっちゃんの声が全身に振動して心地よい。
それだけで嬉しくなる俺は、相当に幸せなやつだと思う。
「…多分だけど。冒険者が利用する宿には、夜のお世話をする方を紹介してくれる所もあるんだよね」
「……」
「だから、じっちゃんに『おもてなし』をしたくて、別々の部屋を勧めたんだと思うよ?」
「…仲間ではなく、今度からは『番』と言わねばならんな」
ぽつり…と。本当に何でもない事のように、ぽつりとじっちゃんが呟いた。何気なく聞いて、その言葉の意味を考える。
途端、体中が燃え上がるかと思うくらい、一気に熱が上がった。
心臓もビックリするぐらい早くなって、息も荒く酸欠状態になっていく。
「どうした?」
黙った俺の顔を見る為に、じっちゃんが顎を掴んで振り向かせようとしたが、そうはさせじと抵抗する。
今はダメだ!こんな顔、絶対見せられないってばーっ!
しばらく嫌々と抵抗していたら、じっちゃんが小さく笑った。そして、
「サクラ…」
優しく俺の名前を呼んだ。…しかも、甘い音のやつだ。
「ワシを見なさい」
「……」
--俺の抵抗なんてこんなものだ。
向き合うと、じっちゃんが嬉しそうに微笑んでいた。だから、ますます俺の体は熱くなる。心臓が口から出そうなくらい跳ね回ってる気がする。どうしちゃったんだろ?これ…。
動揺しまくる俺の頬を、じっちゃんがそっと撫ぜた。
「ふっ。どうしたんだ、顔が真っ赤だぞ?」
「………ぅうっ!」
それは完璧に、からかいの声色だったけど、今更火照った体は治まらないし、何か言いたくても言葉が出なかった。だから、目だけで拗ねてみせる。
じっと見上げた俺を(一応怒ってますな体で)目を細めて見下ろしてたじっちゃんは、一度小さく笑って静かに息を吐いた。
「大丈夫みたいだな。…いつものサクラになった」
「…え?」
「先ほど、『ギルド』とやらであの男に絡まれた時は、ひどく顔色が悪かったからな。倒れるかと思った程だ」
「…っ!」
そうだ。『ネルゼン』に触れられた時、俺の体がおかしな反応をした。触れられれば、どんな相手でもすぐに受け入れるように出来ている体なのに…。
あれば、今まで体験した事のない不自然な反応だった。
そういえば、最近じっちゃんといてもそうだ。今までだって、傍にいればドキドキしたし、触れられれば嬉しかった。
だけど今は、いつも以上に体が熱くなったり、息も上手く出来なかったり。こんな事、一度だってなかったのに。なのに…。
もしかして、俺…。
…壊れてる?
「…サクラ?どうした?」
俺はもともと、『人間達』の動向を調べるために作られた。だから、生まれてからのこの五十年くらいの間、ずっと人間に係わって生きてきた。
だけどここ一年は、じっちゃんとだけだった。だから、なのか?
人間と係わる事がなくなったから、俺の『本来の目的』を止めたから、壊れてきてるんじゃないのか?
もしそうなら俺は………。
「…ど、どうしよう?じっ…、じっちゃん。俺…」
「何だ?どうした?サクラ、お前。また顔色が悪く…」
「俺…。どう…どうしよう…。どうしたら…」
「サクラ、落ち着きなさい。一体、何が…」
「お、俺…、俺っ…壊れた、かも…っ!」
「壊れる?どういう事だ?やはりあの男に何かさ…「魔王様に会わなきゃっ!」…何だと?」
「魔王様に、は…早く会って…。助けてもらわなくちゃ…いけないんだっ!」
…じゃないと、俺………。
「待て。何故、コウに?助けてもらうとは、どういう事なんだ?…サクラ、答えなさい!」
「俺、死んじゃうんだよーーっ!」
俺の叫びに、じっちゃんが見た事ないくらい目を見開いた。
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