刻印

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「終わったねぇ~」 フローリングに座った母が、残暑眩しい外を眺めて沁々と息を吐いた。 「終ったね」 麦茶の入ったコップを持ち上げ、たまった水滴を拭きながら私も腰をおろす。 父が事故で亡くなった日から、警察だ病院だ葬儀屋だお寺だ親戚だと私も母も忙しく、葬儀も初七日(しょなのか)も身内だけで一度に済ませた。それからも手続きだなんだと、あっと言う間に四十九日(しじゅうくにち)の法要を迎えた。 喪に服す間なんてあったものじゃなかった。 今日までが嘘のようにポッカリと空いた時間。これからなのだろうな現実って奴が襲ってくるのは。なんて感じている。 母は耐えられるだろうか。それだけが気がかりだ。 私が幼い頃に当たった、都営アパートの2LDK。 昼間の仕事が規則正しい事もあり、母が子育てに集中できるようにと収入の全てを家計に入れ、自分の小遣いは深夜バイトで補っていた父。 子供部屋もあったし、物もそれなりにあり貧しさを感じた事はなかった。今なら分かる。両親がどれだけ努力をしてくれたのかを。
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