刻印

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台風の影響で急に冷え込んだ下旬。母と一緒に遺品整理を始めた。 父と母が寝ていた和室の一角に、立派な木製の机がある。それが父の聖域だ。 私達には雑多にしか見えない物ばかり。整理と言ってみた所で、写真以外は捨てるか、袋棚に仕舞い込むしかないようだ。 抽斗(ひきだし)から星のマークが付いた折り紙のメダルが出てきた。運動会のかけっこで全員がもらったものだ。 幼稚園で餅つきをしてくれたり、小学校の参観日に代表でお話をしてくれたり、行事にはいつも来てくれたな。眠たいはずなのに。 ケーキのレシピをメモしたボロボロのキャンパスノートも出てきた。 誕生日には毎回冷蔵庫からスポンジケーキが出てきた。それを切って、生クリームと缶詰のフルーツをはさんで、上からまたたっぷりと生クリームをのせる。チョコレートをかけた時もあったし、プリンをのせた時もあった。 母の誕生日には、本物の味も知らないとなと言ってデパ地下の市販のケーキを買ってきた。 たくさん食べたいから作るんだと言っていた父。 深夜の仕事から帰って来て粉から作っていた父。 ノートに見える試行錯誤の跡が少し霞んだ。
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