刻印

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 おとうさん。おしごといつもありがとう。 机の下の大きな紙袋から、ほとんど紙だけで出来た工作と一緒に、震えるような文字で書かれた小さな手紙がたくさん出てきた。 「なにこれゴミじゃない」 苦笑いしてしまう。誕生日か。父の日だろうか。 ありがとうの言葉以外、特に喜んだ様子を見せなかった父。 「おとうさん、うれしくないのかな?」 一度だけ母に言ったのを覚えている。 覗き込んできた母が、捨てられなかったんだねぇと言うと、少し胸が熱くなった。 「うわ〜懐かし〜!」 黒いゴミ袋にくるまれたサンタの格好をした人形たち。 配線を繋ぐと電子音に合わせて、人形たちがベルを叩くクリスマス飾りだ。 それと一緒に、毎朝届いたサンタさんからのクリスマスカードたち。ひらがなで書かれた文字は、いかにもサンタぽいフォントで摩訶不思議な事が書かれていた。それは家の中の場所を示していて、探した先にまたカードがあってを繰り返し、辿り着いた先にはプレゼントが待っていた。 「寝る間も惜しんで作っていたねぇ」 母がぼそりと(つぶや)いた。 クリスマスと言えば今でも話のタネにしている不思議な体験がある。 東京では珍しく綺麗に足跡が残るほどの雪が降った夜だった。
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