刻印

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いちいち手を止めてしまうものだから、気付けば窓ガラスに自分の姿が鏡のように映っていた。 「一旦やめてご飯にしよっか。お母さん」 立ち上がり目に止まったブックスタンドに、ひとつだけDVDのケースが挟まっていた。何気なく手に取ってみる。  34丁目の奇跡 パッケージからしてクリスマス映画のようだった。 「お母さん、この映画知ってる?」 「ああ、お父さんが凄く好きだった映画よ。家で観てるとこ見た事ないわねぇ」 「ふ~ん」 ケースを開くとディスクは入っていなかった。 「お母さん!これ…」 そこに入っていたのは、一通の預金通帳だった。 「あら。ヘソクリかしら」 さらっと母が口にする。わざわざこんな隠し方をするだろうか。 「これ…私名義だ…」 お互い確認するように顔を見合わせる。母にも心当たりがないようだ。 通帳を開いてみると残高は99万2千円。毎月給料日に3千円から5千円が入金されている。 母に手渡すと、同姓同名の愛人かしらと真顔でめくっている。 「ちょっと、やめてよ〜。とりあえずご飯にしよ」 私は動揺を隠すように笑うと、その場から逃げ出した。
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