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「ななみ。いい加減、白状しろよ」 「だ、だから、試作ケーキを食べてくれって言われて……でも、店外に持ち出すのはダメだし、営業中は無理だからって」 「はあ〜ん? ……」  恋人の森下ななみを壁際に追い詰めて、河瀬斗真は両腕で取り囲むように逃げ道を阻んだ。  十月九日、金曜日の夜。  オニオングラタンスープが飲みたい、と言うななみのリクエストに応えるべく探し出した洋食屋で食事をし、その後連れ帰った一人暮らしの自室の隅で、斗真は彼女の揺れる瞳を覗き込んでいた。  明後日からの一週間、ななみは毎日、パティシエである幼馴染に付き合う形で新作ケーキの試食をすることになったのだと言う。しかもその間はデートができないと。  ケーキの試食くらいで会うこともままならないとは、一体どういうことなのかと説明を求めても、いつものななみらしくもなく目を逸らし狭い部屋の中を逃げ惑うのだから、斗真が訝しむのもおかしくはないだろう。 「えっと、十八日、十八日には会える予定なの、だから、ね?」  上目使いで小首を傾げるななみの懇願するような表情に、思わず堪えきれなくなった。 「んっ! ……ん、んん」  困っている顔が可愛くて、小さな意地悪をしたくなるのだ。  別に加虐趣味があるわけでもないと思うのだが、ななみに関して言えばないとも言い切れないかもしれない、と悩む程度には、可愛らしく困る姿を見るのも悪くない。  重ねた唇の隙間からななみへの思いを届けようと舌を差し入れると、おずおずとだが、すぐに思いを返してくる。  そんなところも堪らなく可愛い。  欲しい、と思う気持ちを押し殺して唇を離し瞳を覗き込むと、途端にななみが女の顔になった。 「どうしても俺に隠し事、したいんだ……」 「だからっ、隠してないって……」  あまり強く否定しないのが、肯定を意味するのだと思えてしまう。 「……わかった。じゃあ、その幼馴染の名前、あとで教えて。それと店名。そうすればこれ以上追求しない。誰でも言いたくないことくらい、あるしな」  くしゃっと髪をかき混ぜると、申し訳なさそうにななみが目を瞬いた。 「今日は帰る?」  潜めた声でそう尋ねて、ななみが返事をする前に、ちゅ、と唇を啄む。   どう答えたものかと思案するその表情にも、腰がゾワッと粟立った。 「なあ、どうする? 帰るなら、送ってやる」  送ってやる、と言いつつサラリとした髪に指を滑り込ませ、囁きの合間に唇を啄ばんでいるのだから、帰す気など更々ないのはななみにもわかるだろう。  そうは言っても、決めるのは彼女でいい。強引に奪いたい欲望はあるが、それで彼女に恐怖感を与えるのは本意ではない。  こんなに困らせたくて、笑わせたくて、大切にしたくて奪いたいのは、彼女だけ。  何回めかもわからなかったが、ポワンと開いた唇を啄ばみ、もう一度尋ねる。 「なあ、どうすんの?」 「ん……斗真……すき」  腰に腕を回してくるななみの表情は、すでに蕩けかけている。 「ふっ、それ、答えになってねえし」 「じゃあ、送ってくれなくて、いいし……」  口調を真似てくるのも可愛くて、壁につけていた腕をおろしななみの腰を抱き寄せた。 「じゃ、送ってやらねえし」 「んっ……はぁっ」
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