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 熱い吐息を絡ませ合った翌朝、ベッドで丸くなるななみの寝顔を寝そべったまま至近距離で堪能しつつ、斗真は小さく息を吐いた。  明日から一週間、ななみと会うことができない。平日でも仕事が遅くならない時は二人で食事に出かけることもあったし、家で簡単な物を作って食べたり寛いだりして過ごすこともよくあった。  その時間が斗真にとっては癒しであったのに、それが一週間できないとなると——。 (寂しい、なんて言えるかよ……)  むくむくと湧き起こるイタズラな衝動のまま、まだ眠っているななみの顔にかかる髪をかき上げ、唇の端にキスする。  閉じた瞼にぎゅっと力が入り、ななみは顔を背けた。 (逃げんの?)  声に出さず問いかけると、彼女はすぐに目を開けた。  まだ覚醒しきっていないななみの頭を撫でながら、斗真は囁く。 「おはよう」 「ん? ……ん、おはよう……いま、何かした?」  カーテンの薄い生地を透過する光に眩しそうに目を細めるななみは、小さな手を持ち上げて斗真の頬を突く。  子供にするような態度だが、ななみからされるのであれば許せてしまう。 「別に……そう言えば、昨日のこと、まだ聞いてないな」 「昨日……」 「昨日、何があったっけ?」  斗真が問うと、その瞬間綻んだ口元を、ななみは着ていたぶかぶかのスウェットの袖で隠した。  昨夜愛されたことを思い出したのだろう。だが、斗真が今尋ねたのは、そのことではない。 「そっちじゃなくて。俺に隠してること」 「あ……」 (その反応、やっぱり何か隠してるのか) 「ななみに試作ケーキを食べさせたくて仕方ない奴の名前、教える約束だったよな」 「そう、だったね」  口元をスウェットで隠したまま、ななみは上目遣いに斗真の様子を窺う。  無意識であろう、その可愛すぎる仕草に打ちのめされそうなのをぐっと堪え、斗真はななみを促した。 「はい、名前と店名、教える」  口元を隠している手をそっと剥がし、瞳の奥を覗き込んだ。  もし、ななみの口から出てきたのが、男の名だったら——。 「BURIO っていうお店で、店長やってるの。名前は、かづき。すぎのかづき」 「……かづき……」  嫌な予感に気づかないふりを通していたが、ななみの告げた名前が男のものであることに、斗真は愕然とする。 「かづきとは小学校が一緒で、よく遊んでたんだ。その頃からケーキ屋さんになりたいって言ってて、一年半くらい前かな、お店を出したんだよね」  幼馴染であるかづきとの交友を思い起こすななみの表情には曇りもなく、その男に特別な感情はないのだろう。その証拠に、ななみの舌がよく回る。 「何度か食べてるけど、どれも本当に美味しくてね。あ、でも斗真は甘いの好きじゃないよね。甘過ぎないのもあったらいいのにな」 (かづき、かづき……)  ななみの声が告げた男の名前に、斗真は焦っていた。  わかっている。幼馴染であるその男に特別な感情はないのだ。だからこうして斗真の腕の中に、ななみはいる。  だからと言って全く嫉妬しないわけにもいかないし、逆に独占欲全開なのも格好がつかないんじゃないか。  知らない部分があった方が、より興味を惹かれるのは確かだろう。 「ねえ、斗真、聞いてる? 聞いてなかったよね、まあ、いいんだけど」 「……聞いてる。けど、もういい」  楽しそうに他の男の話をするななみを見ているのは、辛い。まさかそんな正直な気持ちを言えるわけもないが。 「もういいって、斗真が聞いたのに……」  唇を尖らせるポーズをして見せるななみが、他の男にもそんな顔を見せるのだとしたら——。  堪らなくなってベッドの上で上半身を起こし、ななみの肩を押して仰向けさせると、斗真は真上から彼女を見下ろした。  誰にも渡さない——。  言葉にはできなくても、彼女には伝わるはず。そう願って、斗真はななみの唇を塞いだ。
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