勿忘草

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その時私はまだ大学四回生だった。私は医学部医学科の所属だったので、 工学部や理学部に所属するサークルの仲間たちが卒論就活の類に励んでいる のを横目に見つつ、OSCEとCBTに向けた勉強に励んでいた。これに合格 しなければ臨床実習に出れないので、皆必死だった。当時私は精神科に 進路を定めたばかりの頃で、大学の勉強もしつつ、精神科の専門的な内容も 独学で少しかじっていた。新たに手に入れた知識をよく噛み砕きもせず、 ただ知識を手に入れたという事実のみに固執して得意がるのに忙しく、 みんなに「精神科医」なんてあだ名をつけられたことを密かに誇りとして 生きていた。その生活の中に独善的な要素が多分に含まれていることに 私は気づかなかった。思えばこれが第一の失敗だった。  そうしてOSCEの試験も少しづつ近づいてきた頃、同級生の一人の様子が 最近おかしくなった、という噂を私は聞いたのである。その同級生と私とは それなりに仲が良かった。だから私は彼女が試験に向けて頑張っている姿を 知っていたし、彼女が最近疲れた顔をしていることも、よく知っていた。 だから私は彼女がOSCEに向けた猛勉強によって追い詰められたものと 考えた。
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