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本棚に追加ベルヴァンド城へ明日、侵入する。
私は緊張の面持ちで床に就く・・・つもりであった。
ここはプシュレイ城の一室。 明日は丸腰でキャロルと一緒に侍女として忍び込むのだ。 だからか気が立っていた私はキャロルに窘められた。 とにかく気持ちを落ち着かせて今夜はゆっくり眠りなさいって。
メイにも 「考えても仕方ない時は寝るに限るよ。心配だけどしていてどうにかなるわけでもないしさ」 と
背中をポンと軽く叩かれて、彼女はさっさと眠りについてしまう。
言われるままに私も毛布をかぶるけど、やっぱり眠れない。 ベルヴァンドへの懸念もあるけど 昼間喧嘩していたリーディに言われた言葉がリフレインする。
「 隙を見せるな。」
そんな に私は隙だらけ?よくわからないよ・・・。 ただ昼間にリーディに抱きしめられると、私自身が怖くなる。
もっと触れてほしい、このままずっと二人きりでいたい。 でも、それは自分の浮ついた心だ。今はそれどころじゃないのだ。
なのに、自分の身体はどうにかなってしまいそうで・・・ 私という軸がなくなりそうで怖かった。
そんなことを考えていたら、回廊に殺気を感じた。 私は落ち着いて槍を携え、静かに扉を開いた。 侵入者? 魔物ではなく人だというのは確かだ。 でも不審者では…無い。この感じは… 気配のする方へ槍を握りしめながら進むとそこには ブロードソードで一心不乱に空を斬りつけているリーディがいた。
まるで彼は見えない何かと闘っているようだ。だから そんな彼を見た瞬間私は思わずこう口にしてしまった。
「あんた、こんな夜に何やってんの?」
すると彼はこちらを振り向いて、剣を振りかざしてきたものだから 私は思わずそれを槍で受け止めた。
一瞬瞳と瞳が交錯する。落ち着いていて滅多に取り乱さないいつもの彼ではない。
リーディの瞳は何かに怯えているようで、それでいて私と目が合ったときは 少しばつが悪そうな感じもした。 どうしたのだろうか?ものすごい汗だ。一体何しているのこの人?
私は槍を降ろして、徐に夜着のポケットに仕舞ってあった綿布を取出し 彼に渡した。
「殺気、漲らせて誰かと思ったじゃない…」
リーディはそれを黙って受け取り、こちらも見ずに顔の汗を拭きとると こう答えた。
「…珍しく気が利くのな」
「珍しくだけ余計よ!」
普段通りの軽口を言われてつい私は言い返してしまう。 よかった、やっぱりいつものリーだ。相変わらずムカつくお答え。 内心私は安堵して彼に歩み寄りながらこういい続けた。
「いつまでここにいるの? 明日ベルヴァンド…」
「気を抜くな」
ホッとした隙に、いつの間にか私はリーディに後ろを取られていて 羽交い絞めされた状態になっていた。 ブロードソードの切っ先が私の顎スレスレのところで光る。
「!」
「気をつけろ。…俺が敵なら死んでるぞ」
「わ、わかってるわよ!」
耳元で低い声でそう言われて、心臓の鼓動が早くなり、 隙を突かれた悔しさでつい私は言い返してしまう。
でも、こんな夜中にまた言い争いはしたくはない。 だって明日からしばらくは、リーディとは別々になるのだから。
同じ城に忍び込むけれど怪しまれないために 彼は志願兵を装って別ルートでベルヴァンド城へ侵入する。 だから…喧嘩はしたくないの。一時的とはいえ離れ離れに なるのに何かあった時、後悔したくない。
そう思っていたら、今度は彼はブロードソードを 鞘に納めて私を抱きしめていた。 私は驚いて少し声を荒げてこう言った。
「ちょっと! リーディ? いい加減…」
「… 死ぬなよ」
「え?」
思いつめたような声色を聴いて 抱きすくめられた腕から逃れようとしていた私は つい動きを止めてしまった。
最後の仲間がいると思われるベルヴァンドには 世界最大の軍事力を誇るといわれるカルサイト騎士団が存在する。
そこで志願兵となった、かつてのスザナの旧友が戻ってこないという噂もある位で。 ―そのようなところへ私たちは離れ離れで侵入するのだ―
するとリーディが私の首筋に顔を埋めた。
一瞬その感触にびくりとする。 やっぱり何か思いつめているみたいだ。かすかに震えているのが感じられる。
もしかしてリーディは…
ベルヴァンドへ行くのが怖い?
「……リーディー… あんた……」
だから私はしばらくの間を置いて、言葉を続けた。
「あんた、まさかビビったの!?」
なぜか、彼の震えがぴたりと止まった気がする。 それからしばらくして、長い溜息が聞こえてきた。
「……心配なんだよ。お前、戦闘以外は隙多いから」
「はぁ!?」
相変わらず抱きしめられた体勢で、あきれたような口調で リーディが言う。なんなのよ、昼間も仲直りした時にも 言われたけれど…。
「多いだろ? 鍵、閉めねぇで着替えてたことあったし」
「やだ、まだ覚えてたの。忘れてよ!」
私はすっかり忘れていたあの出来事が彼の一言で全部思い出されて つい怒鳴ってしまった。この体勢のせいか顔は見えないけれど 絶対ニヤニヤしながら、意地悪な顔で言っているに違いない。 悔しい。
「今も、あーーーっさり俺に捕まったままだし?」
「だ、だって……」
推測通り意地悪くそう言われて、思わず私は後ろを振りむき、リーディと目が合った。 そしてつい、心の奥で留めておくつもりであった本音が出てしまった。
「嫌じゃないから…」
瞬間私はキスされていた。 気持ちが通じ合ってからは 何度かしているけど なぜか心の準備がないときに 彼から不意打ちでするので、私はどうしても狼狽えてしまう。
嫌じゃないのよ、でも…。 私たちはお互い赤面して俯いてしまった。 こういうことには私は本当に疎い。
そして、おそらく私なんかよりこういうことに 慣れているはずの彼ですら真っ赤だ…。
「…俺やっぱ、夜のお前苦手だわ」
「は? な、何が? え? なんで?」
だから 私は 挙動不審になるしかなす術がない。 それにどうして毎度毎度夜の私が苦手だと言うのだろうか? すると遠くからキャロルの私を捜す声が聞こえてきた。 しまった、何も言わず黙って出て行ったから…! あわてて私たちは離れた。
「まあステラ、こんなところにいたの。リーディーも一緒だったの? なかなか部屋に戻ってこないから心配したのよ?」
「ご、ごめん。キャロル…すぐ戻るわ」
「どうしたの? ステラ、顏真っ赤よ」
「え? 何もないよ!」
少し後ろ髪をひかれる思いで 私は部屋に戻った。キャロルはリーディに 何か伝えていたみたいだけど…。
部屋に戻るとメイは相変わらず、すうすう眠っている。 それから私はキャロルに黙って出て行ってごめんねと謝って 今度こそ眠ろうとベッドに潜る。
にしてもリーディ…どうしてあんなに剣を振っていたのかしら…? 先程彼に触れられたところがいまだに熱を帯びているみたいで なかなか私は寝つけなかった。

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