プロローグ 転送

2/3
前へ
/38ページ
次へ
1度疑問を持ってしまうと、そこからその疑問は更に大きくなってしまった。 大学を卒業して就職しても、ロクな人生が待っていない。 勤労の義務?納税の義務?誰がそんなこと決めたんだ? ではきちんと義務を果たせば、それは確かなものとして必ず報われるのか? そんな疑問が大きくなってしまい、アルバイトも辞め、大学に通うのもやめてしまった。 階下から聞こえてきた両親の話し声には、自分達の育て方が間違っていたのか?という苦悩が入り混じっていることを感じ取れた。 両親には多少申し訳ない気持ちがあるが、ただ逆に聞いてみたい。 「あなたたちはそんな人生でいいのか?満足しているのか?」と。 両親の話し声を聞こえていないフリをして、重い空気になっている台所を避けるように「ちょっとコンビニに行ってくる。」と声を掛け、表に出た。 コンビニに着いたが、しばらくはマンガなどを立ち読みし時間を潰した。自分のことで悩んでいる両親がいる家には、早く帰りたいとは思わない。 話が終わったであろう時間を見計らい、飲み物とスナック菓子を買い、コンビニを出ようとした時だった。 自動ドアを出た瞬間、目の前がグニャリと曲がった。眩暈なのか何なのか倒れそうになるのを堪えて目を閉じていると、しばらくするとその眩暈のような感覚も治まってきた。 遠くのほうで、誰かがしゃべっている声が聞こえる。 ただそれは、喋っているというよりも、演説のようにも聞こえた。 「この大変な時代を乗り切るには、ここにいる君達の力が必要です。」 今度ははっきりと聞こえてきた。 「入職おめでとう。諸君の活躍を祈念し、私からのお祝いの言葉とさせて頂きます。」 はっきりと聞こえたその声に、ゆっくりと目を開けた。 目を開けると、自分以外の全員が拍手をしていた。 どこだここは?あたりを見渡すと、自分もそうだが、リクルートスーツに身を包んだ集団の中にいることに気がついた。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加