第九章 あなたにここにいて欲しい 2

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 もうこのまま駅まで戻るつもりだ。横浜駅まで着いたら、橋下さんに電話しよう。  まさか箕島に捕まるとは思ってなかった。あんなピリピリしたところでまさか話しかけてくるとは思わなかった。俺は再び息を吐きながら坂を下る。 「──よう。お疲れ」  知ってる声がして顔を上げた。道沿いの時間貸し駐車場で、車にもたれて立っていたのは橋下さんだった。 「──来てたんですか?」 「まあな。式場には入れねえけど」  そう言いながらも黒のスーツで黒いネクタイを締めていた。 「こんなとこまで来るなんて」 「テメエの冴えないツラが見えたからな。車から降りてきただけだ」  ああ、そうなんだ。少しホッとする。あんな会話を聞いた後だ。その龍神会の当人が来てるとなると大問題だ。 「──で、なんでテメエはオマケ付きなんだ?」  オマケ? 橋下さんは親指で俺を指差した。  振り返ると、そこには鬼のような形相で息を切らした箕島がいた。 「ゲッ!」 「──なんで龍神会の野郎がここにいるんだ?」 「出棺はどうしたんだよっ!」 「そんなモン任せてきたわ。いいから説明しろ」 「説明なんてないっすよ」 「テメエは関係ねえ。おい、どういうことだ?」  箕島は俺を押しのけて、橋下さんににじり寄って行った。 「やっぱり関係あったんじゃねえか」 「なんの話だか」橋下さんは箕島を鼻で笑った。 「俺は話を聞くまで帰らねえぞ」そう低く唸ると箕島は橋下さんを睨みつけた。しばらく二人は睨み合っていたが、先に折れたのは橋下さんだった。 「──なんでこんな面倒くせえもん拾ってくンだよ?」  いや、俺のせいじゃねえって。 「こんなとこで話せるか。とりあえず車に乗れ」  橋下さんはそう言い放つと車の鍵を開けて、さっさと乗り込んでしまった。箕島もそれに続いた。橋下さんは「後ろに乗れ」と言っている。俺も慌てて車に向かった。 「テメエは助手席!」何故かそう怒鳴られて、俺は助手席に滑り込んだ。
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