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深川には本当に一時間足らずで着いた。そこからは俺のナビで移動する。
てか車デカすぎだからな。歩いて移動したほうが早い気もするけど。
棗組の屋敷の前で車を停めた。俺はすぐに降りて、家のチャイムを鳴らそうとした。するとすぐに玄関が開いた。そこにいたのは源さんだった。
「こ、こんにちは」
「なんか馴染みが来るってお嬢に聞いたからよ。徳さんと先に来といたわ」
「ああ、そりゃ助かります」
俺は少し安堵した。なんかあっても源さんと徳さんがいてくれれば何とかなるだろう。パタパタと足音がした。
「源さん、早く上がってもらって」
「あの、お嬢さん」
車のドアの音が聞こえた。振り返ると組長さんがすぐ後ろに来ていた。組長さんは軽く頭を下げた。
「えっと……結城さん?」
いや、まあそうなるよな。俺もどうしてここに来たのかよく分かんねえんだよ。
「ご無沙汰しております。お父様は入院されてるとか」
「はい……あの父のお知り合いですか?」
「お父様の妹君が私の連れ合いでして」
えっと……それはつまり……
「「叔父さんっ!!??」」
どうやら組長はお嬢さんの父親の妹と結婚したらしい。ややこしいのは妹も嫁に出て、兄も婿養子として家を出たことだった。妹さん……つまり組長の奥さんはもうずいぶん前に病気で亡くなったそうだ。それ以来、連絡をすることも少なくなりついには途絶えてしまったようだった。
「解散したとは風の噂で聞いてはおりましたが、入院してるとは知りませんでした。不義理いたしました」
「いえ……解散する時は確かに病気を患っていたのですが、今はその……」
お嬢さんは言い淀んで下を向いた。けれど言わねばならないと思ったんだろう、顔を上げた。
「今は認知症になってしまって、施設に入っています。ですので……もしかしたら覚えてないかも、しれません」
お嬢と徳さんは声をかけた。
「昔のことなら覚えてるって。だろ?」
「まあ、それはそうかもしれないけど」
認知症……組長さんはそう呟くと黙り込んでしまった。
「せっかく遠くから来てくださったんだ。会いに行ってみたらいい」
「でも、もし覚えてなかったら。申し訳ないから」
「そこは気にしなくていいんじゃないですか? こっちが勝手に来たわけだし。わからなかったら適当に話を合わせますって」
俺は横から口を出した。お嬢さんの重荷になったらこっちが申し訳ない。正直、俺には組長は関係ないからな。勝手に来たんだから、そこはなんとかしろ。
「そう、ですか?」
「ええ。顔を見せてもらえれば十分なんで」
組長さんはそう言ってにこりと微笑んだ。
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