第九章 あなたにここにいて欲しい 2

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「あ、あの……」  か細い声で呼び止められた。 「あの、おじさんには彼女でもいたんでしょうか?」  振り返ると喪主の娘さんだった。  ああ、そうか。アレだけ見たらそう考えるかもしれない。 「いえ。その、ああいう感じのが好きだったので」俺は言葉を濁す。 「おじさんのお知り合いですか?」そう聞かれて俺は頷いた。 「あの、差し出がましいようですが……どんなお知り合いですか?」  どんな? ここはちゃんと答えたほうがいいよな。 「えっと、以前、妹尾……さんに補導されたことがあるっていうか」補導? それもなんか違うか。でも〈逮捕〉という言葉は違うし、第一この場所でははばかられた。  遠くから「未来ちゃーん」と声がかかった。俺は「呼ばれてますよ」とひと言伝えると頭を下げて、その場をあとにした。恐らく警察関係者には見えなかった俺にいろいろ聞きたかったに違いない。けど俺に聞かれても、俺は妹尾のことはあまり知らないんだ。  そして出口で引換券を出して〈会葬御礼〉を受け取って、外へ出た。これで無事終了だ。俺はほうっと息を吐いた。  その時いきなり肩を掴まれた。 「──待て。どういうことだ?」  クソ。まさか追ってくるとは思わなかった。俺は無理やり振り向かされた。 「もうすぐ出棺ですよ、箕島サン」 「テメエが来るのは分からないでもないが、なんだ、アレは?」 「なんだっていいでしょう?」 「よくねえわ」  箕島は俺を睨みつけた。箕島は顔色も悪く、やつれていた。それだけじゃない、本当に痩せた気がした。 「妹尾を愚弄するつもりか?」 「違いますよ。頼まれたんです」 「誰に?」そんなこと言えるか。  箕島の俺の肩を掴む手に力が入った。 「愚弄するとか、そんなことするつもりは一切ないですから。俺は妹尾のことは嫌いじゃなかった」  遠くから「箕島!」と叫ぶ声がした。そろそろ出棺なんだろう。俺は肩を掴む箕島の手首を掴んで、肩から離した。 「そろそろ戻ったほうがいいですよ」  俺はそのまま踵を返し、歩き出した。背後から舌打ちが聞こえたが、それは無視することにした。
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