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葬儀社ならば、岬が希望する項目に該当する。葬儀社なんて盲点だった。もしかしたらこれを知らせるために小鳥はここまで自分を案内してきたのだろうか。
運命的なものを感じ、顔を小鳥に向けたが、もう小鳥はそこにはいなかった。
「すぐそこってあるけど」
岬は周囲に目を巡らした。確かに向かって左手の横断歩道の前に、メモリアル田貫という大きな看板を掲げた建物がある。一階に受け付けと駐車場があり、二階に式場などがある小さな葬儀社のようだ。
自動ドアのガラスから中を覗くと、ひっそりとして人気がなく、今日は葬祭がないのかもしれないと思った。
逡巡し、ドアの前で立ちすくんでいると、背後に人影が立った。
「何しているのだ? うちに何か用なのかな」
不意に掛けられた太い男の声に驚いて、岬は飛び上がった。
「ひゃっ、す、すみません!」
振り向くとでっぷりと太った人の良さそうな顔つきの中年男性が、ピシッと喪服を着て立っている。頭は禿気味で、おなかのベルトが今にも弾けそうだ。手には紙袋を提げている。
メモリアル田貫に用があって入り口に立っていたのに、いざとなるとあたふたしてしまって何も言えなくなった。
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