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「……くれよ」
大将が何か呟いた。和美は思わず箸を止めると、聞き取れ無かったと言って、聞き返す。
「……旨そうに食ってくれよ。今日は命日、味噌ラーメンの日だからよ」
「……すいません。美味しいです」
すると大将は、カウンターにとても小さなお椀を二つ並べて、丁寧にスープを注ぎ出した。そこへ僅かな麺と少しのモヤシ。四つ切りにした茹で玉子を入れている。
これは……。
「和美ちゃん、食事中にこんな寂しい話、聞きたくないだろ?」
和美は黙った。様々な事が頭を駆け巡る。
「なぁ、食事は賑やかな方が楽しいんだ」
そう言って大将は微笑むと、カウンターの上に写真立てを置き、その前に二つのミニラーメンを並べた。
和美はやっと気が付いた。この時間にお店が開いていた理由。それは、奥さんと息子さんのお供え物を作る為だ。
恐らく普段は、あの丸い男が出て行ったら店を閉める。しかし、偶然にもあの日、和美が体を滑り込ませて店に入った──。
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