世界一の味噌ラーメン

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世界一の味噌ラーメン

 丸々に太った男は味噌ラーメンを食べながら、窓の外を見て店主に言った。 「親父、また歩いてるよ。あの女性」 「あぁ、可愛そうに。ありゃ都会の育ちだな。此処らは、この時間は何処も開いてないからな」 『グゥ……』 「呼んでみようか。お腹さすって、腹の虫の音が、ここまで聞こえているぞ」  店主は「いや、ほっとけ」と言った。 「だって、親父も寂しいだろ? 最近、俺も仕事の関係でいつもの時間に来れなくなって」 「馬鹿野郎、関係ねぇよ……」 「いや、死んだ兄貴も母ちゃんも、飯は賑やかな方が好きだって、言ってたじゃん」 「もう、そんな事忘れた」と言って、店主は寸胴鍋を磨き始めると、「早く仕事に行け!」と、息子を急かした。  翌日、息子はいつもの時間に窓の外に目をやった。 季節は食欲の秋。鈴虫や松虫の声を便りに、山々も行き交う人々も衣替えをし、俄かに温かい食事が恋しくなる頃だ。 『コツコツ……コツ』 『グゥ……』 「おい、まだ食べ掛けじゃねぇか! ちょっと待て!」 店主の声を背に「ごめん、仕事が入った!」と言うと、丸い男は勢いよく店のドアを開き外に出た。 爪楊枝を咥え、わざとらしく笑顔でお腹をさすってみる。  時刻は15時過ぎ、昼食には遅く、晩御飯には早過ぎる。  道行く女が息を吹き返した様に男の横をすり抜け、店内に駆け込んだ。直後、男の背中に、大将と女の元気な声が飛び交った。 「いらっしゃいませ! お好きな席にどうぞ!」 「味噌ラーメン!」 「あいよ!」  丸々と太った男はお腹をさすると「親父も嘘が下手だよなぁ」と呟き、微笑んだ。  季節は食欲の秋。気温も下がり、人の温もりが心にしみる頃。世界一の味噌ラーメンは和美の胃袋を満たし、大将の寂しさも埋めてくれた。 この味噌ラーメン、世界一。 やはり、出来る。 〈終〉
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