和美の憂鬱

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 和美は東京で育った。地方の支社に異動して今に至る。同僚はファーストフードや手作りのお弁当で食事を済ましている。 しかし、和美は弁当を作れない。都会ではお店のランチを食べ漁っていた。 ファーストフードは嫌いじゃないが、お腹が気になる。コンビニ弁当は、この時間は人気の無いおにぎりしか残って無い。 田舎は嫌いじゃないが、やはりこんな時は都会が恋しくなる。  和美の人生にとって、最も大切な事がある。それは『食』を楽しむ事だ。和美にとって『食』は、唯一の楽しみと言って良い。 それには、ロケーションも含まれる。美味しいものは、環境によってその味を何倍にも高める事が出来るのだ。  遠くの山々を見れば、苦しくも季節は食欲の秋。味覚を楽しませずに、どうすると言うのだ──。 『グゥ……』  もう、本当に駄目かもしれない。ヒールの音が不規則に鳴り響く先には、いつものコンビニがある。ヒールはそこを目指して、虚しく鳴り響く。 『コツコツ……コツ……コツ……』  すると、突然、瀕死状態の和美の真横のドアが開いた。 『ガラガラガラガラ!』  慌てて見ると、中から丸々と太った男が爪楊枝を咥えて出て来た所ではないか。 男はお腹をさすった。風船の様に膨らんだお腹が、男の手と戯れる。  至福の表情だ。男の顔に、幸せが見える。  和美のヒールが、けたたましく音を立てた。 男がドアを閉めるより早く、店内に体を滑り込ませる。大嫌いだった都会の満員電車に、今日だけは感謝だ。 「いらっしゃいませ! お好きな席にどうぞ!」 和美は席に着く前に言葉を発していた。 「味噌ラーメン!」 「あいよ!」
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