黄昏色のスープ

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「どうかされました?」 カウンターの向こうで店主らしき男性が、不思議そうにこちらを見ている。和美は我に帰ると、麺を啜った。スープに見惚れてしまっていたのだ。 「いえ、あまりに美味しくって。固まってしまいました」 すると、店主は満面の笑みを浮かべて「ありがとうございやす!」と返事をする。その顔は活力がみなぎっていて、和美の疲れた心を元気にしてくれた。  和美はラーメンを啜りながら店内を見渡した。すると、ある違和感に気が付いた。  まず、店主しかいない。席数はそこそこるあるのだが。そして、自分しかいない。これは店を開ける意味があるのだろうか。  壁に目をやると、メニューが木の板に書かれている。豚骨ラーメン、味噌ラーメン、醤油ラーメン。しかし、どう考えても木の板のサイズが可笑しい。味噌ラーメンだけ、まな板位のサイズだ。 先程はこれが目に留まり、店に入るなり咄嗟に叫んでいた。  これはどういう事だ。思わず店主に声を掛けようと、カウンターを見た。しかし、思わず麺を吹き出しそうになる。 ──こっちを見てる。 店主はニコニコしながら、こっちを眺めている。和美は思わず目を逸らし、ラーメンに視線を戻す。 「美味しそうに食べるねぇ」  不意に店主が口を開いた。
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