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大将の手が止まった。同時に、何かを呟いた様だ。
「……だよ」
それは投げ捨てる様な言い方だ。ヤケクソと言った方が正しいかもしれない。
「大将、ごめん、ちょっと聞こえなかった」
「まぁ、いいじゃねぇか。気にしなさんな」
「いや、気になるって。大将、気になる」
和美があまりにしつこいので、根負けした大将は仕方なさそうに呟いた。
「……待ってるんだよ」
「誰を?」
「……息子だよ。別れた女房に付いて行った、俺の息子だ」
和美の箸が止まった。それを見て大将は気まずくなったのか、笑顔で話し出した。
「この店はな、元々は東京にあったんだ。それは行列の絶えねぇ、有名店だった。ところがさ、女房が田舎でのんびり暮らしたいって言うもんだからよ、地方に移店する事にしたわけよ」
何とも男気溢れる行動に、和美は感銘を受けた。やはりこの男、出来る。
「息子はさ、いつもこの時間に飯食ってたんだ。俺と女房が二人で切り盛りしてたからな。忙しくてなかなか昼飯も良い時間に食わせられねぇ。親として、失格だよな」
「仕方ないんじゃ無いですか?」
「まぁな。でも、それだけじゃないのよ。親としてのエゴかもしれねぇ」
大将は頭を掻き毟った。
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