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和美の憂鬱
もう、駄目かもしれない……。
オフィスレディーの和美は腹部をさすった。普段なら鏡餅の様に美しく積み重なった贅肉も、今はボンレスハムの様にタイトになっている。
一雨ごとに美しく紅葉していく山々に、『チンチロリン』『リンリンリン』と、松虫や鈴虫の鳴き声が響いている。ここは地方のオフィス街だ。少し遠くに目をやれば、豊かな自然が秋の空気を届けてくれる。
それは都会では味わえない。しかし地方に居ては当たり前で気付かない。秋の空気は、都会から地方に移住した者だけが知る御馳走だ。
知る人ぞ知る『至高のグルメ』と言っても過言ではない。都会育ちの和美は、それを思い切り吸い込んだ。
『グゥゥ……』
もう、駄目かもしれない。再び和美は腹部をさすった。時刻は15時過ぎ、この時間の空腹は拷問だ──。
和美の勤め先は、この度顧客の為に抜本的な労働改革を掲げ、楽しみなランチタイムも仕事になった。
フラフラと道を行く。どのお店もランチタイムは終了している。ヒールを不規則に鳴らすと、遠くの景色が霞んで見えそうだ。
こんな日が、もう何日も続いている。
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