出会い

2/2
前へ
/41ページ
次へ
 男は私の相づちに気を良くしたのか、夢を語り始めた。それは、いつか頂点を目指すという夢。ドクリと心臓が高鳴る。私も、見てみたい。この男と一緒に。 「私は、そこが見てみたいわ」  見てみたい.......。  自分の不幸に酔い、現状から這い上がろうともしない男。  性別の違いだけで、優遇される男。  なのに、女が性を武器に、または売り物にしているとでも思っている男。  そんな生き物が、堕ちてゆく、その瞬間を。この目で、じっくりと、見てみたい.......。 「どうぞ」  何も知らないシンは笑顔で水割りを手渡す。その時、シンの手が、膝が、私に触れそうになる。とっさに、テーブルの上のコースターを差し出した。 「ここに、置いて?」  シンは一瞬固まったあと、何も聞かずにグラスを置いた。不審がられただろうか?  それでも.......。  男に触れられるのは、抵抗があった。  置かれたグラスの水滴をおしぼりで拭う。いつだったか、同じ事をした時、アイツに言われた。「水商売の女みたいな事をするな」と。 「ごめんね? 気がきかなくて」  なぜ思い出してしまうんだろう。どうしてこんなにも懐かしく思ってしまうんだろう。 「.......優しく、しないで」  私は、この男を傷つけたいだけなのに。
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加