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男は私の相づちに気を良くしたのか、夢を語り始めた。それは、いつか頂点を目指すという夢。ドクリと心臓が高鳴る。私も、見てみたい。この男と一緒に。
「私は、そこが見てみたいわ」
見てみたい.......。
自分の不幸に酔い、現状から這い上がろうともしない男。
性別の違いだけで、優遇される男。
なのに、女が性を武器に、または売り物にしているとでも思っている男。
そんな生き物が、堕ちてゆく、その瞬間を。この目で、じっくりと、見てみたい.......。
「どうぞ」
何も知らないシンは笑顔で水割りを手渡す。その時、シンの手が、膝が、私に触れそうになる。とっさに、テーブルの上のコースターを差し出した。
「ここに、置いて?」
シンは一瞬固まったあと、何も聞かずにグラスを置いた。不審がられただろうか?
それでも.......。
男に触れられるのは、抵抗があった。
置かれたグラスの水滴をおしぼりで拭う。いつだったか、同じ事をした時、アイツに言われた。「水商売の女みたいな事をするな」と。
「ごめんね? 気がきかなくて」
なぜ思い出してしまうんだろう。どうしてこんなにも懐かしく思ってしまうんだろう。
「.......優しく、しないで」
私は、この男を傷つけたいだけなのに。
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