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過去
三年前。まだ高校生だった私は、幸福な夢の中にいた。
大学は、国公立に進学しようか。それとも、両親に負担をかけててでも、希望の学部がある私立大学に進学しようか。そんな小さな悩みを抱えていた。
(そうだ。お父さんに相談してみよう)
その日、家に居たのは、父と私の二人だけだった。
私は、父が好きだった。血の繋がりこそ無いものの、小学校に上がる頃には、共に暮らしていたし、父の実子である妹だっている。
思春期を迎えても、私の中で父は、憧れのお父さんのまま。異性だけれど、家族以外の目線で見たことはない。
「お父さん。進路の事で相談があるの」
父の仕事部屋をノックして、そう声をかけた。父は振り返らず、私に問いかけた。
「お母さんに、聞かなくていいのか?」
「……お金の事、だから」
私が言葉を濁すと、そうかと父は呟いた。
家庭の事情は、よく知っている。この家に、母が稼いだお金で買った物など何一つないこと。今私が着ている服も、履いてるスリッパだって、何の特技も資格もない母と私では、丸1日働いても、手の届かない代物なのだという事も。
私達母娘が人より裕福な暮らしをおくれるのは、全て父のおかげ。母も私も、父には感謝していた。
だからといって、父に絶対服従を誓った訳でもないし、血の繋がりなどなくても、私を娘だと思ってくれている。父は、そういう人なのだ。そう、信じていた。
「あの、ね?」
それでも、やはり。お金の話をするのは気が引ける。大きすぎるデスクチェアは、父の姿をすっぽりと包み隠していて、その顔は見えない。
部屋に一歩足を踏み入れると、フローリングの床とスリッパの擦れる音が聞こえた。
「お父さん……」
そっと背もたれに手をかけた、その時……。
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