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 目を付けたのは、職場(みせ)近くのホストクラブ。二年近く水商売を続けていると、色んな噂を耳にする。なかには、ホストに貢ぎ、やむを得ず水商売に足を踏み入れる女もいた。  金色と黒に囲まれた看板。筆記体で書かれた店名は読みづらい。派手ではあるが、女性の好む装飾ではない。けれど、その女っ気の無さが、逆に女を引き寄せるのかもしれない。  ツルリと光る、黒階段の前に立つ。  ここに足を踏み入れれば、私の復讐は始まる。自分を慰め、癒すだけの、虚しい復讐劇が。  躊躇したのは、ほんの少しの後ろめたさから。 「……ふふふっ」  今更、何を躊躇う。まだ男が怖いと言うのか、私は。  地面を踏みしめると、ピンヒールのかかとから全身に、ビリリと電気が走った。高いヒールは、プライドと同じ。  どんなに、男が怖くても。今や私も、この世界の住人。夜の蝶の名に恥じぬよう、演じきって魅せよう。男たちを虜にする、初心(うぶ)で、可憐な女を。
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