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黒い覆面に黒いローブの男が、城の西側の城壁の上にたたずんでいた。このマーデルの城砦はまだ新しく、壁には傷一つついていない。城の一番高い所にある塔の上には、グリフィンの彫像があしらわれており、赤い旗がたなびいていた。あたりはすっかり夜の闇が覆い、城壁に灯された松明が、辺りをてらしている。下手に動くと、影が写し込んで衛兵に見つかってしまうため、ここは慎重に動かなければならない。男はしばらく、辺りを見回しながら何かを待っているかのように、じっと身を潜めていた。腰に刺した短剣を抜き、ギラギラした輝きを月明かりに照らす。刃こぼれ一つない短剣は銀の文様があしらわれ、その刃には唐草模様が彫られている。短剣を腰に刺し直すと、男はゆっくりと城壁の上を歩きだした。命がけの勝負である。衛兵に見つかればいっかんのおわり。男の狙いはある財宝である。酒場で聞いた話によると、しばらくは金に困らずに済む金額のあるお宝が、城の地下に大事に保管されているらしい。それをいただこうというわけだ。魔法の罠があるかもしれない。情報はあまりないが、なんとかなるだろう。軽い身のこなしで、城壁から男は飛び降りた。
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