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大切な思い出
見慣れた家…どれくらい離れていただろう…。長い間だったのか短い間だったのかも分からない。
それでも頭の片隅にあった、私にとって無かったことにしちゃいけない場所。お母さんの写真が、私のそばにあったとしても…
隣に立っているレイさんは、私の手を握ったまま。
「手、離すなよ?他の人間から見えるからな…。あとさ、ホタルはここからしゃべるなよ?俺がなんとかする。クォーツが言ってたのはきっとこれだ…。」
(レイさん、気にしてくれてたんだ…)
「よし…!」
そういうとレイさんの姿は、光も反射しないほどの黒いマントに、昔の貴族のような服にブーツという、黒基調の王様のような姿に変わった。
「レイさん…!?」
「…ああ、お前が一番怖いものの格好だよ。…アニキの、ね。」
「え…あのお兄さんの…?何をするの…??」
「任せろ〜?なんとかしてやるから…!あと、俺が何かしたら嫌がる振り、な?」
「??」
私は訳も分からず、レイさんに横抱きに抱えられて窓から中を見ると、お父さんが床に膝をついているのが見えた。
「おと……」
「し〜っ…」
黒の手袋をしたレイさんの人差し指が、私の唇に触れた。
「…しめしめ、開いてんな〜…」
(…なんかレイさん、悪魔っていうより『怪盗』みたい…)
レイさんはニヤッと笑って、ベランダの開いた窓から、音も立てずにそのままフワリと中に入る。
私は久しぶりに見るお父さんが気になって、すごくドキドキしていた。
(お父さん…何してたんだろう……?)
うっすら開いた隣の部屋は、いよいよお父さんの今いる部屋。
レイさんはもう一度、「ホタルは黙って、な?」そう小さく言うと、二人の身体を薄い霧で包んだ。
「…。」
前に私が、知らずにレイさんの家のドアを開けて、苦しんだときに癒やしてくれた、あの霧…。
「(よし、行くぞ…)」
レイさんが私を抱き上げたままドアを開いた。
お父さんは当然、突然のことに唖然としていたけど、すぐに、その何者かに抱かれた私に気付いた。
「…っ…蛍…!!」
「『愚かな人間…』」
レイさんは気高さが出る感じで、低い声で脅かすようにお父さんに言った。
(…お兄さんの真似かなあ…)
「『この娘は私の操り人形となった。気に入ったこの娘を私の花嫁として頂いていく。毎晩魔族の証を刻み込み、穢し続け、可愛がってやるのだ!光栄に思え…!』」
「た、頼む……蛍を…連れて行かないでくれ…!」
お父さんは何も知らないから、すごく必死みたい…
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