優しい悪魔の寂しがり人形

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「うわああ!ヤバ!!仮でも契約結んでおいて良かったな!」 彼の姿が見えた。 気付くと抱きかかえられていて、私の身体が薄い霧に包まれると、だんだん意識がハッキリしてきた。 「逃げ出そうとしたんじゃ…無いな。もう寂しくなったのか??」 彼が出したらしい霧に包まれていると、辛さが薄れていった。 「…どうして……」 「ああ、お前に異常が起きると分かるように仮契約しておいたからな。そのくらいは出来る。…大変だったぞ、『実家』に帰る、って言ったろ?魔力を蓄えてる最中に気付いた。すぐに来られて良かったけどな…」 「ごめ…なさ……」 声が震えて言葉が詰まった。 今度こそ怒られる…痛い目に合わされて、痛いまま人形にされるかもしれないと、本気で思った。 でも… 「分かったろ〜?人間に見つかると厄介だからさ、いつもはこの家、隠してあるんだよ。山の上より高い上空に。まあ、気付いて良かった良かった!」 「……。」 この人が嘘を付くとは思えない。 私は初めて、死ぬ恐怖から救われた安心感で力が抜けていった。 …私を逃さないためじゃなかった……それに、怒られなかった…心配してくれたんだ…… 「まだ人形じゃないから動きたいのは分かるけどな〜。今日一日の辛抱だ、暇潰すもん持ってきてやるから!…お前、そろそろなんか飯作って食えよ?俺の分、少し残してな!じゃ、また後で!」 彼は一気に言うと、手をヒラヒラさせて、また出かけていった。 あの人が、何が好きか分からないけど、食べるなら何か… 私はゆっくり、二人分のご飯を作り始めた。 私はここに来てから泣いてばかり…。泣いたのは、いつ以来かな… お母さんが死んじゃったとき、私は小さかった。でも、泣かなかったらしい。 大好きなお母さん…すごく悲しかったはずなのに…。なぜ覚えているかというと、やけ酒をしたお父さんが言った言葉を覚えているから…… 『可愛くないガキだな!母親が死んだのに泣かねえのか!』 お父さんがいっそう私を叩くようになったのも、私が人形みたいだと周りに言われ始めたのもその頃だった。 あの人は、私と違ってよく笑う人…。 でもさっき、私が苦しそうにしてたら助けてくれた…。そのうち私を人形にするのに…。 苦しい顔をしていたら、人形には出来ないのかな…?良く、わかんない…… のんびりご飯を作っていて、そろそろ夕方らしい。窓から差し込む光が赤くなり始めた。 でも、私が先に食べてもいいのか分からず、作り終わったものを皿に盛り付けたまま彼を待った。 人形になる時、痛くないといいな…… そんなことを考えながら。
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