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1.兵器と呼ばれた少年
「ぐっ…。」
僕は腹に刺された包丁を引き抜いた。
更に血が溢れ出す。
僕を刺した男が短い悲鳴を上げ、尻もちをつく。
僕はその男に笑いかけた。
人生に疲れた。
兵器と呼ばれ、ただ善人を悪のために殺す日々など続いても意味がない。
だから僕はこの選択をする。
せめて僕は善の為に人を殺していたかった…。
だから…殺してくれて、ありがとう。
目を瞑ると通い始めた高校のクラスメートが脳裏に浮かんだ。
皆がこちらに笑いかけてくる。
「宇宙。はーやーくー!」
隣の席だった遠藤まつりがニッコリと笑いかけてくる。
「どうしたんだよ、大町。早くこっち来いよ。」
仲が良かった黒木裕翔が優しい声で声をかけてきた。
あぁ、これが走馬灯ってやつか?
「A-702!遅いぞ!」
次いて弾んだ声で声をかけてきたのは兵器仲間のB-359。
僕と互角の力の持ち主だった。
A-702とは僕のコードネームだ。
僕は皆の顔を思い浮かべることが出来て、満足した。
「ま、まさか本当に避けなかったなんて…。『核兵器』…無事か…?」
男の焦る声。
核兵器とは僕の通り名だ。
僕としてはこんな名前は嫌いである。
しかし、人殺しでも心配してくれたことに嬉しい気持ちが湧き出てきて、力が抜ける。
「案じてくれて…ありがとうございます。あと、『大町宇宙』…僕の…大事な…大切な名前です…。あと…殺してくれて…ありがとう…ございま……。」
最後まで言う気力がなかった。
どんどん深い穴にゆっくりと落ちていくような感覚がした。
まぶたが落ちていく。
「お、大町宇宙!おい、おい!そうだ、救急車!」
男の声が頭の奥で警鐘のように鳴り響く。
(最後に会えたのが…いい人で良かった…!)
ふぅ、と意識が飛んだ。
ーーーーーー
ーーーーーーーー
白い、眩しい光。
はっきりと脳が光を捉えている。
「あれ…?」
僕は目を開く。
そして一瞬、この部屋の眩しさに目を細める。
「ここは…?」
僕は呆然とつぶやく。
僕は足に力を込めて立ち上がると、壁に触れる。
この部屋はなんかおかしい。
ドアが無い。窓も無い。通気口がそこにはあるだけだ。
家具はテーブルと椅子、何冊か入っていだけの本棚。あとベッドのみ。
この不気味な部屋をあちこちと探索する僕の耳にハイヒールのコツコツという音が響く。
すると、壁の一部がゴゴゴという音を立ててポッカリと開いた。
そこには優しい笑みの美女が。
「こんにちは。A-702さん。」
僕はその美女を見て、開口し、一言。
「…誰です?」
はっきり言うと僕は不満であった。
あんな誰もが望むそうな素晴らしい最後を遂げたのにまだ自分は呼吸をしていたのだから。
はっきり言うと、そのまま永眠したかった。
「私は生命を司る女神、フィアレアです。あなたとお会いできて光栄です。」
優雅に純白のドレスの裾を掴み、腰を落とす女神。
僕は別に驚きはしなかった。
だって、壁に穴を開けて入ってくるなんて神様しかできないし、僕が見てもこの部屋のどこにも扉というものが存在せず、この部屋が壁で囲まれていたことを確かめていたからだ。
「あ、ご丁寧にどうも。A-702…または大町宇宙です。どうぞお見知りおきを。」
「あら。こちらこそよろしくお願いします。」
僕は反射的にペコリと頭を下げた。
僕が頭を上げると、女神は僕を憐れむような目で見つめていた。
「あの…なんか御用で?」
僕が戸惑ったように言うと、女神は口元に笑みを浮かべる。
「いえ…こんなにきちんと礼儀もきちんとなさっていて、優しい方に人を殺させるなんて、と思っただけですよ。」
僕は苦笑いをする。
「でも僕は暗殺のことになると人が変わるんですよ。」
「えぇ。知ってます。」
微笑みながら即座に頷く女神。
そんなことを言ってる女神だが、やってることはただのストーカーだ。
「確か、大人しくて優しい性格から冷酷な性格に。第一人称も僕から私に変わるんでしたよね。」
僕は暗殺のプロだ。
だから感情を隠すことは得意である。
ほぼストーカーだな。この女神。
僕は内心この女神に対して引いていた。
「たしか食べ物の好みも変わるんですよね。暗殺者じゃない時は野菜が好きで、暗殺者の時はお肉が好きなんですよね?」
うん。この人ストーカーだわ。
「それで癖も変わるんですね。大町さんの癖はポケットに手を入れること、暗殺者さんの癖は指を鳴らすことですよね。」
自分でも知らなかったわ。教えてくれてひとまずお礼を心の中で言いますよ、はい。
「で、そんなスト…いや、よく見ていらっしゃる女神様が僕になんの御用で?転生とかそんなうまい話ありませんよね?だって、僕は一応人殺してますし。犯罪者だし。」
それを聞いた女神はニッコリと笑い、
「それがあっちゃうんですよ、そんなうまい話が。」
えぇ!あるの?!
…って、本当にそれでいいのか神様よ。
「しかし、いくつか条件がありましてね。1つは、自分の罪に対して深い絶望感を抱いている者、2つ目、実力がある者。3つ目は犯罪を犯さなければ生きる道が無かった者。」
僕はそれを見いて、多少驚いた。
「全て僕に当てはまってますね…。2番は認めたくないですが、一応最強と呼ばれてましたし。」
それに女神はまたもニッコリと笑いながらこう言った。
「そうですね、核兵器さん。」
「…あのですね、人間をモノ扱いしないでもらいますか?僕、そういうのうんざりなので。」
僕らは常にモノみたいに扱われてきた。実際に僕らは、「兵器」と呼ばれていた。
兵器たちは全員で10人居た。
兵器とは世界中の昔の武勲を上げた偉人の血を受け継いでいる人から血を提供してもらい、その英雄の血を強く受け継いでいる部分を抽出し、それを完璧に再現、大量生産し、孤児の子供達に注射する。
それに耐えきれない子供たちもいた。
彼らは死に至ったらしい。
しかし、僕は余裕で生き残った。
研究員曰く、注射されても平然とニコニコと笑っていたらしい。
その結果に基づき全員がランクに合わせてAからOまでランク付けされていた。
A→アレクサンドロス大王
B→呂布
C→始皇帝
D→ジャンヌ・ダルク
E→織田信長
F→トラヤヌス
G→サラディン
H→伊達政宗
I→巴御前
J→エル・シッド
僕は最高位のA。そう、僕はアレクサンドロス大王の血を引いていることになる。
最後の数字は受け継いだ血の認識番号だったらしいが、上の方が面倒臭がったのか、そのまま僕らの名前になった。
全く、適当な人だ。
これらの血を受け継いだ
僕らは暗殺者として生きてきた。と言うわけだ。
「…申し訳ございません…。」
シュンとしてしまった女神。
僕は慌てて言い直す。
「あ、ごめんなさい。嫌味に聞こえました?そんなつもりはないので…。」
すると、女神は笑顔になり、僕に笑いかける。
「そうですか、良かった!」
そして女神は僕に近寄ってくると、ギュッとハグした。
僕は訳が分からず瞬きする。
生きているときはこんな事はされなかったからだ。
ハグという行為自体は知っているのだが。
「あら?普通の人間って地球では嬉しいときにこうするんじゃないのですか?」
「…分かりません。僕は普通じゃありませんでしたし。」
そう呟くと、女神は失言をしたのかと勘違いしたのかオロオロとし始めた。
「あ、ごめんなさい…。」
僕はその様子を見て思わずふっと笑う。
そんな喜怒哀楽の激しい女神があまりにも人間のようだったからである。
僕が急に笑い始めた事に女神はキョトンとしていたが、次第につられ、くすくすと笑いを漏らし始めた。
そして一通り笑った僕たちだったが、笑いを収めた女神が薄っすらと微笑んだのを見て僕も笑いを止めた。
「あ、もうこんな時間…。そろそろ転生しないとですね…。」
女神がそう呟いた。
すると女神は、僕に近づいてきた。
またハグをするのか?
僕はそう思ったが、違った。
「転生してもステータスをA-702さんのままにしておきますね。」
僕は女神を見る。
女神はいつもと同じ微笑み見浮かべながら3歩後ろに下がった。
「強すぎる死者にはあまりしてはいけない事なのですが、ルール上はそんな項目は一切ないので。あと、生まれてからそんなに強かったらおかしいので成長するにつれて増えていくように細工します。今の状態になるのは…そうですね、10歳の誕生日の時にしましょう。」
女神が一人で進めていく計画。
それを僕は呆然として眺めていた。
女神は顔を上げ、僕を見ると
「生まれるところも地位を高めにしましょう。…あ、でもな…。まぁ、大町さんなら大丈夫でしょう。」
一人でブツブツ呟いている女神。
何が大丈夫なの?
なんか危険なの?
早くも異世界への不安が湧き上がってくる。
そして女神は不意に僕の肩に手を置く。
「女神様?」
僕が心配そうに女神を呼ぶと、彼女はニッコリと笑う。
「フィアでいいですよ。いや、むしろそう呼んでください。」
僕は驚いた後、コナクリと頷く。
女神…フィアは嬉しそうに笑うと、手を僕の肩に触れたまま目を閉じる。
フィアの体から淡い光が溢れ出し、その光は徐々に移動し、僕を包み込む。
そしてその光は僕という存在を綺麗に洗い流す様に時間をかけて広がっていく。
手の感覚が消える。
足、腕とどんどん感覚がが薄れていく。
そして、遂に顔さえも感覚が消えた。
その後、直ぐに感覚が戻った。
目を開けてみる。
目の前はフィアと一緒にいた真っ白な空間ではなく、赤い布が遠くに見えた。
そんな僕を抱き上げ、微笑んでるきれいな女性。
僕の母親だろうか。
すると、
「…生まれたか。執務室まで産声が聞こえてきたんだが。」
深い、重低音の声が聞こえた。
父親かな?
どうやら知らぬうちに産声は上げきっていたらしい。
「はい。おめでとうございます。」
しかし、あとから聞こえた声はその言葉とは裏腹に本心ではないようだ。
「せめて私の血を継がせたかった…。」
父親が僕を見て悲しそうに微笑みながら笑う。
そして、その大きい掌で僕の頭を撫でる。
「すみません、陛下…。」
母親が苦しそうに呟く。
いや、それよりも……。
父親が陛下?!
それって、僕は王家に生まれたってこと?!
でも、周りの反応から見て見るに、歓迎をされているようではないようだ。
あーぁ。また癖の強い人生を送ることになるのかな…?
はっきり言うと僕のカンはやけに当たる。
いや、ド素人が見てもすぐに分かるだろうか。
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