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これからの時間
ふたりは斎の実家へ戻った。
広い家に最低限のものだけしかない場所は寒々しいが、いまは愛する人がいるだけで十分だ。
お茶でも、と台所に行きかけた斎を心哉は捉まえた。
さっきのでは物足りないと、お互いわかっている。
斎にとって本格的な恋愛自体が初めてみたいなものだから、最後の相手が心哉でよかった。
心哉は欲しかったキスを十分に与えてくれた。
「俺がいない間、どうしてた?」
問いの意味はなんとなく察せられる。
「寂しいからって誰とでも寝たりしないよ」
「じゃ、ひとりで?」
本当にこの男は意地悪だ。彼の頭の中にはたぶん、玩具を使う斎の姿が映っているだろう。
「だって俺もそうだし。悪いとは思ったけど、ずっと持ってた」
心哉はズボンの尻ポケットから財布を出し、中から小さな四角いものをつまみあげた。
「これ……」
「斎さんの動画。俺も出てるけど」
あのときデータは消すつもりだとか言っていたはずだが、斎は疲れ果てていて確認しなかった。
「一人でいる時に見るには刺激が強すぎて、あんまり見てはないけど。返すよ」
手のひらに乗ったSDカードを、どうすればいいのか。
「見るために撮ったわけじゃないんだな」
「斎さんは見られるのが好きでしょ」
「またそういう……」
待っている間、心哉に抱かれる夢は何度となく見た。しかし最初は鮮明だった映像が、記憶とともにだんだんとはっきりしなくなっていった。
「想像してみたんだよ、斎さんがこのさき、巫女じゃなくなった時のこと」
いきなりの話題に、斎の胸が詰まる。
未来は来るものだ。いつまでも同じ状況ではない。
「今でも普通の男だけど、それが年とって普通のおじさんになる。まあちょっと綺麗なおじさんかな。その時は俺もおじさんになってて、宮司をやってる。で、一緒に住んでたまにイチャイチャする。すごくいいと思うけど、斎さんはどう思う?」
聞いているうちに斎は心哉の顔が見られなくなった。
「斎さん?」
「これ以上、泣かせんなよ……」
もしかしたら心哉のことを、まだ好きになるのかもしれない。
一緒にいる時間だけ、好きが重なっていく気がした。
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