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「野村はさ、転向してくる前どこにいたんだったっけ?」
「東京です」
「うん、東京だよね。それは知ってるんだけど、本当はどこから来たの?」
「え?」
「質問の仕方が悪かったかな。野村は……いつから来たの?」
一瞬ぽかんとした表情をした後、質問の意味を理解したようで、彼女はぱっと顔を伏せた。
床を見つめる顔が小さく左右に揺れる。
彼女が何かに迷っているときの仕草だ。
「じゃあ、先生から先に言おうか?」
下を向いていた顔がほんのちょっと持ち上がりかけて、でもすぐまた下を向いた。
自分から言うつもりはないようだ。
この場合、ちゃんと規則を守っている野村が正しい。
「僕にはしゃべっても大丈夫だよ。当てずっぽうで言ってるわけじゃないんだ。だって、モーツァルトが教えてくれたんだから」
モーツァルトというキーワードを聞いて、彼女は視線が合うところまで顔を上げて、ちらっと僕の顔を見た。
ひとまず話は聞いてくれるらしい。
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