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それから二日後。
注文の品が届き、一ノ瀬にタッパーを返すので土曜日に家へ伺うと伝えると、ごはんの用意をして待っているという返事だ。
そして、約束の日である土曜日になり、いつもよりも身支度に時間をかけて食器とタッパーの入った袋を手にタクシーに乗り込んだ。
万丈の家から三十分ほどの距離に一ノ瀬の住むマンションがある。
チャイムを鳴らすとすぐにドアが開き、二度目のお部屋訪問となった。
今日は部屋に入った途端、甘いにおいがする。
「この匂いは」
「すまん、苦手だったか?」
棚の上にお香をみつける。特に苦手なにおいではなので大丈夫だと伝えた。
「休日は普段できない場所の掃除と片づけをした後、時間が余っていたら香を焚き本を読む」
「そうなんですね」
いくら忙しくとも自分でご飯を作り、洗うものをためることはしないのだろう。
万丈なんて休みの日にやればいいという考え方なので、半日は家事でつぶれてしまう。普段できない片づけなどした日には一日あっても足りないだろう。
「だから部屋がキラキラで綿菓子みたいに甘いんですね」
綺麗に掃除されている、可愛い、甘いにおいがする、それをひっくるめてそう口にした。
すると一ノ瀬が頬を染めて目を見開いた。
「なに、恥ずかしいことを」
口元を手で押さえて万丈から視線をそらす。大いに照れているが、どことなく嬉しそうに見えた。
「え、あ」
堅物な大人の男なのに、その反応が可愛くて胸がどっと波打つ。
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