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それが二つ並べられ、隣に一ノ瀬が座った。
「開けてみてくれ」
「はい」
ふたを開けるとふわりと湯気が立ち、そしていいにおいが広がった。
「鶏肉の照り焼きどんぶり!」
「鳥のお皿を貰ったから、鳥料理の気分になってしまってな。だが、あのお皿に盛ったら食べにくいと思ってどんぶりにした」
お皿を気に入ってくれたこと、それを使わなかった理由が可愛いことに胸がときめく。
今日はすぐにこうなってしまう。拳を握りしめて太ももをたたく。
「どうしたっ、味が濃かったか?」
思わずしてしまったことに驚かせてしまった。
「いえ、違います。うますぎて感動してたんです」
とっさにそう口にする。美味いのは事実なので嘘はついていない。
「そうか。よかった」
ホッとしたようで、口元がほころんだ。
「はぁ、マジでやばい」
「大げさだなぁ」
一ノ瀬は料理のことだと思っているようで素直に嬉しそうな表情を浮かべるが、万丈がヤバいと思っているのは気持ちの方だ。
かなり好意を持っている。それは恋をしたときに感じるような、些細な喜びであったり、見せる表情が可愛いと胸がときめく、そんなものだ。
知れば知るほどこんなにかわいらしい人はいないと思う。怖いと思っていた表情も家では柔らかい。
「万丈?」
箸を持った手が止まったままで、ゆっくりと一ノ瀬の方へと顔を向ける。
「いえ、美味いなって」
「何度も言ってくれなくていいぞ。あ、でも嬉しいからな」
照れ笑いを浮かべ、綺麗な仕草で食事をする。
途端、今までに感じたことのないくらい大きく胸の鼓動が飛び跳ねた。
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