気づいてはいけない想い

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 驚いてそれを咄嗟に手で抑え込むと、落ち着けと水を一気に飲み干した。 「ん?」 「がっつきすぎて喉につっかえちゃいました」  確信してしまった。これはもう止められないものだ。 「大丈夫か!」 「はい。お水をもう一杯いただけますか?」 「わかった」  冷蔵庫へと向かう一ノ瀬を見てホッと息を吐く。 「水だ」  手渡されてそれを受け取るときに指先が当たる。  それだけでじわっとその部分が熱く感じた。  もう一度、水を飲み干す。だが、熱は全然収まらない。 「もっと飲むか?」 「いえ。大丈夫です」  自分にだけ見せてくれる表情。あがる熱は水を飲んだところで抑えきれない。  万丈が異性を見るような目で一ノ瀬を見ていると知ったらどう思うだろうか。  恋愛には疎そうだし恋愛対象は女性のような気がする。  もし、告白をしたら真面目な顔をして「きっとそれは勘違いだろう」と言われかねない。  一ノ瀬はあたりまえのことを口にしただけ。だが、万丈はその言葉を聞いたらたえられる自信がないから。  ただの上司と部下という関係に戻ってしまうだろう。  この想いは決して口にしてはいけない。この先も色んな一ノ瀬を見るために、友達以上に想う気持ちは胸の奥底に閉じ込めておこう。
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