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伸ばした手は届かない(一ノ瀬)
もともと一ノ瀬と万丈は同じ課ではなかった。
入社して配属されたのは百が課長をしていた部署にいたのだが、一ノ瀬の昇進が決まった時に移動してきた。
どうも自分は顔が怖く、仕事の面でははっきりと口にするタイプゆえに周りに怖がられているようで、百が味方になれるようにと後輩の友人である十和田をつけてくれた。だが、それでけではと万丈を移動させたのだ。
万丈は大丈夫だから。
その言葉は一緒に仕事をするようになってすぐにわかった。
それでも仕事以外の話をしたことはなく月日は流れ、そして従弟の円が同じ課に配属されてそして飲み会での出来事があり今に至る。
まさかプライベートでも仲良くなれるとは思わなかった。部屋に五十嵐兄弟と十和田以外の人がいることが信じられない。
昼休みは百の部屋で食べている。弁当を手作りしていることを周りに知られたくないからだ。
「エン、何か嬉しそうだな」
一ノ瀬の名はエンヤというのだが、五十嵐兄弟は自分のことをエンと呼ぶ。
「楽しそう?」
いつも通りに重箱を広げて二人に取り分けていたのだが、どうしてそう思ったのか。煮物をつかんだまま箸が止まる。
「ずっとこうだよ」
そう十和田に言われて、
「無意識に表情に出ていたのだろうか」
箸をおき、確認するかのように自分の顔に触れた。
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