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その姿を万丈がじっと見つめていた。
「すまん。自分でも作れそうかなと、つい考えてしまう癖があってな」
「え、あ、俺こそ不躾ですよね」
変に思ったのだろう。こういうものは円と一緒の時にしか買わないので、自然としてしまうのは万丈には気を許しているのだろう。
「いや、万丈ならかまわない」
だからそう答えたのだが、その瞬間、万丈の頬が赤く染まった。
「え?」
「すみません、何でもないです」
なんでもないわけがない。それなのに失礼しますとフロアを出て行った。
「どうしたんだ、万丈の奴」
似た表情をしていた者をつい最近見かけた。
その人は想い人の笑顔を見て万丈のように頬を赤らめていたのだ。
万丈のことを知りたい。彼の一ノ瀬を知りたいと言ってくれた。
だが、それは友達になりたい、そういう意味だ。
好きという言葉は同じでも意味は違う。きっと見過ぎてしまったと思って恥ずかしくなったのだろう。
勘違いしてはいけない。好意イコール恋愛対象ではないのだから。
オレンジショコララテのお礼をしたい、そう万丈を夕食に誘った。
「あれはお礼のつもりだったんですが、一ノ瀬課長の手料理がたべたいからお誘いに乗らせてもらいます」
と言われて胸が小さく跳ねた。
やはり料理を褒められるのは嬉しい。しかも万丈はたくさん食べてくれるので胃袋に収められていくのを眺めるのも好きだからだ。
「そうか。それなら今日は共に帰ろうか」
「はい。一緒に」
楽しみだという万丈に、一ノ瀬は相槌を打った。
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