伸ばした手は届かない(一ノ瀬)

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 会社から万丈を連れてマンションへいくのははじめてだ。  いつもは車窓から外を眺めているのだが、今日は万丈がいる。 「やはりどの路線もこの時間は混んでますね」  定時で仕事を終えて乗り込んだ電車は箱詰め状態だった。  いつも帰る時間でも混んではいるがここまで酷くはない。 「課長、大丈夫ですか」  万丈と向かい合わせ。押されて密着度が半端ない。 「あの、腕、後に回してもいいですか?」  その方がお互いに多少は楽かもしれない。 「あぁ、いいぞ」  一ノ瀬の体を抱くように万丈の手が後ろに回る。  更に密着度があがり、目を見開く。  万丈の息を感じる。熱を、香りを。 「はぁ、一ノ瀬さん、いい匂いしますね」  ふいにそんなことを言われて、どっと熱が上がる。 「じゅ、柔軟剤では、ないか」 「何を使っているんですか」  鼻を首のあたりに持っていき、すんすんと匂いを嗅いだ。 「可愛い容器に入っているやつだ」 「へぇ。今度、探してみようかな。俺、この匂い好きです」 「そうか」  顔が離れ、ホッとする。だが、それもつかぬ間。背中を押されて下半身が前に。自分のモノに当たるのは万丈の……。 「えっ」  万丈と一ノ瀬は同じような背丈だ。ということは自分と同じくらいの場所に同じものがついている。 「ばん」  その時、丁度ドアが開き、二人の体は離れた。
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