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トイレを済ませた後、会計の脇にある椅子に座らせる。
社長は途中で帰ってしまったのですでにおらず、時間的にもそろそろお開きだろうからと先に帰ることを告げに行く。
五十嵐が気が付いて、
「俺が送っていきます」
と申し出てくれたが、大丈夫だからと一ノ瀬と自分の荷物を手にする。
「俺が送るよ。五十嵐に任せたと知られたら十和田さんに睨まれる」
「十和田さんなんて関係ないですよ」
十和田は同じ部署の先輩だ。昔からお世話になりっぱなしで頭が上がらない。
しかも五十嵐を円と呼び可愛がっていることを周りは知っている。
「冷たいなぁ」
ぬっと大柄な男が後から五十嵐を抱きしめる。
誰かと飲みながらもこちらを気にしていたのだろう。やはり来たかと苦笑いする。
「ちょっと、やめてください」
「五十嵐クン、課長は万丈に任せておけば大丈夫」
「いや、俺は、万丈さん助けて」
「あ……、十和田さんの相手は任せた」
頑張れと両手を握りしめてポーズをつくると、五十嵐が親指を立て下向きにし返した。
そんな態度をとるのは十和田がよほど苦手なのか、苦笑いをして鞄を手にして戻ると、一ノ瀬が壁にもたれかかりウトウトとしはじめていた。
「課長、帰りますよ」
「う……」
一ノ瀬との関係は会社の上司と部下。それ以上に関わることもなかった。
それなのに意外な一面を見てしまったから、こんな気持ちになったのだろう。
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