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俺の趣味、その言葉が頭をめぐる。
「え?」
「だから、これは俺の趣味だ」
まさか一ノ瀬の趣味だったとは。
「笑いたければ笑うがいい。俺みたいな男が少女趣味だと」
一ノ瀬が苦しそうな顔をする。知られたくないなかったのだろう。しかも万丈は同じ課の部下なのだ。
「笑いませんよ」
他人の趣味を笑うなんて、してはいけないことだ。
それに、会社での一ノ瀬氏か知らなかったので、色々な一面を見れるのは嬉しい。距離が近くなった気がするから。
「そうか」
気が抜けたか、表情がゆるんだ。それを見てまたもや驚いた。
「意外と、かわいいんですね」
つい、口に出てしまった言葉に、一ノ瀬の眉間にしわがよる。
「やっぱり馬鹿にしているのか」
「いえ、あっ、これ可愛いですねぇ」
とテーブルに置かれた大きなくまを手に取る。
「可愛いだろう! 円が誕生日のプレゼントにくれたんだ」
まどかとは彼女だろうか。一ノ瀬の趣味を知っていてぬいぐるみを贈ったのだから、きっと彼にとって仲の良い存在なのは間違いない。
「いいにおいもしますね」
フルーツ系の甘い香りがする。
「そうだろう?」
いつの間にか一ノ瀬もクマに鼻をくっつけていた。
「はぁ、落ち着く」
意外な距離の近さに俺は驚いて顔を離した。
「ほかのもにおいするんですか?」
「するぞ。日曜に洗ったばかりだから」
くまから離れうさぎとねこを手にすると顔をはさむ。
もふっとした感触と意外な行動に目を見開けば、一ノ瀬の口元がほころんでいた。
「こうされると癒されるだろう?」
確かに柔らかいものに挟まれるのは気持ちがいいが、それよりも万丈は一ノ瀬に釘付けになっていた。
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