課長の趣味は

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 ほんわかとした気持ちで一ノ瀬を眺めていたら、 「彼女?」  そう聞き返される。 「まどかさんのことですよ」  もしかしたらまだ恋人関係にはなっていないのだろうか。だが随分と親しげに感じる。 「あぁ、そうだったな。俺と円が従兄弟だと知らないか。五十嵐のことだ」 「五十嵐?」  確か五十嵐の名前は……、 「円!」  円が彼女ではなく男、しかも五十嵐のことだと知りホッとする。そして、今度はそんな自分に驚いた。  今日の自分はどうかしている。 「万丈、言いふらさんでくれよな」 「え、あ、はい。わかりました」  ということは社長とは叔父と甥っ子の関係ということか。 「だから社長の誘いは断れないんですね」 「そういうことだ」  テーブルに出された料理に、目を見開く。女子力が高い人が作るような料理だ。  ワンプレートに小さめのおにぎりが三種類、ヒジキ、玉子焼、お漬物、なすとひき肉の炒め物がのっている。 「これが鰹節と昆布を白ゴマ、これが梅・シラス・大葉、これがたらこと鮭だ」  単品だけでも美味いのに混ぜてあるとかヤバいだろ。 「こんなに用意するの大変だったでしょう」 「ここにくるのは円くらいだからな、嬉しくて。あ、多すぎたか?」  浮かれる姿にきゅんと胸が鳴る。部屋だけでなく中身も可愛い人なんだろう。 「いえ、余裕です」 「よかった」  ワンプレート以外にお味噌汁とお茶がある。 「ふぁぁ、赤みそっ」 「万丈の実家って、赤味噌が主流の地域だったよな」  前にお土産を渡したときに、出身を知り覚えていたのだろう。  その心遣いが嬉しくて気分が高揚した。 「そうなんです。なめこ、お揚げ、豆腐! 最高です」  母親が良く作ってくれたなと懐かしく思いながら味噌汁を一口、ほっと息を吐く。 「はぁ、美味いです」 「喜んでもらえて嬉しい」  隣にもう一つ、万丈が食べているものより少ない量のおかずとご飯を盛ったプレートが置かれる。
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