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今まで並んで食事をしたことがないので、顔が緩んでしまうので手で頬をふにふにと動かした。
「どうした?」
隣の席に座りこちらを見ている一ノ瀬に、なんでもないという。
「俺みたいな男が乙女趣味で、今日も、誰かのためにご飯を作れるのが嬉しくて、張り切って……、さすがに引いただろ?」
「なぜです? こんなおいしくてお洒落なご飯を作ってくれて、俺、すごく嬉しくて浮かれているのが顔に出てしまいそうだなと思って頬を弄ってました」
「そうか。それならいいんだ」
唇がほんのりと綻んでいる。それがかわいらしい。
美味しいご飯を頂き、しかもお土産だとおかずをタッパーに詰めてくれた。しかもたくさんある。
自分ではこんなに美味いおかずを作ることはできないのでこれはありがたい。
「多かったら冷凍しておけ」
「はい。ありがとうございます」
「いや、料理は好きなのでな、いつも作りすぎてしまうから助かる」
もしもここが会社で仕事をしている最中であったら、たくさんあって邪魔だから持って帰れという感じになる。
だが、今は思う。これが本当の一ノ瀬なんだろうと。それを知ることができてよかった。
「それでは会社で」
「あぁ」
見送られて部屋を後にする。
そのまま家へと帰るとおかずの詰まったタッパーを冷蔵庫へと入れる。
飲み物ばかりの冷蔵庫が一ノ瀬の優しさでいっぱいになる。それを眺めていると温かい気持ちになり口元が緩んだ。
すると閉め忘れ防止のアラームが鳴り、万丈は慌てて扉を閉めた。
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